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モス「ごはんバーガー」対決でマクドナルドにまさかの敗北。業績復活の道はあるか?=栫井駿介

コロナ禍でも業績を伸ばしたマクドナルドと、業績不振が続くモスバーガー。両者は明暗が分かれつつあります。モスバーガーの経営が惜しいのは、マーケティングのやり方を間違っているせいだと思います。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

明暗わかれるモスバーガーとマクドナルド

先月まで続いた緊急事態宣言中、昼食を調達しようとモスバーガーを訪れると、店内には多くの人がいて、何やら殺気立っていました。注文待ちの列と、受け取り待ちの客でごった返していたのです。やっとのことで注文口まで到着しましたが、店員さんから「30分待ちです」と言われ、予定もあったのでやむなく諦めるしかありませんでした。

一方、別の日にマクドナルドに行くと、混雑を想定して早めに行ったおかげか、ドライブスルーでもほとんど待つことなく注文でき、受け取りまで一瞬でした。「さすがマクドナルド」と唸ったものです。

両者の業績は明暗が分かれつつあります。

日本マクドナルドホールディングス<2702>が右肩上がりの業績を描いているのに対し、モスフードサービス<8153>は業績を落としています。

<日本マクドナルドホールディングス>

出典:マネックス証券

<モスフードサービス>

出典:マネックス証券

ハンバーガーチェーンとして国内トップ2として名を馳せる両者が、なぜこれだけの差がついてしまったのでしょうか。

食中毒で危機のモス、マックは店舗改革で復活

モスバーガーは近年不祥事に見舞われました。2018年8月、長野県の2店舗で腸管出血性大腸菌O121による食中毒事故が発生し、関東・甲信地域の19店舗28名が感染する事態となったのです。

飲食店での食中毒は致命的です。事故が起きた店舗だけでなく、全国的にモスバーガーから客足が遠のきました。当該年度(2018年度)の最終損益は赤字となり、現在再起を図っている状況です。

ここで思い出されるのが、かつてのマクドナルドです。2014年7月、中国工場における期限切れ鶏肉使用問題が発生したのです。床に落ちた鶏肉を素手で掴み、そのまま使用する映像がテレビでも流れ、信用は地に墜ちました。350億円もの最終赤字を記録し、復活は厳しいのではないかとまで言われました。

しかしそこでCEOのサラ・カサノバ氏による改革がはじまります。彼女は、老朽化して雑然とした多くの店舗の改装、人材教育の徹底などを行い、イメージ刷新を図りました。

【関連】V字回復マクドナルドと苦戦するモスバーガー、なぜ明暗が分かれたか?=栫井駿介

その結果、マクドナルドの業績はV字回復を遂げ、現在の好調を呼び込むことになりました。新型コロナウイルスによる外出自粛はさらに追い風となり、5月の既存店売上高は前年同月比15.2%と大幅に増加しています。

Next: 私はモスバーガーも同じように復活できると考えます。なぜかと言えば――



モスバーガーはうまい!

私はモスバーガーも同じように復活できると考えます。なぜかと言えば、私自身モスバーガーが好きだからです。

特に好きなのが、基本の「モスバーガー」です。しっとりとしたパティに肉厚のトマト、溢れ出すソースは何度食べても飽きることはありません。チーズを入れた「モスチーズバーガー」となると、とろとろ感が口の中で絡み合い、一層ソースを引き立てます。

モスバーガーの強みは、まさにここにあると考えます。すなわち、基本メニューのクオリティがとても高いのです。

以下のアンケートを見ても、定番メニューに対する高い人気がうかがえます。

Q. モスバーガーの定番メニュー(バーガーメニュー/シーズンメニューなどは除く)で最も好きなものを選択肢の中から一つ選んでください。

1位「モスバーガー」(13.3%)
2位「テリヤキバーガー」(8.4%)
3位「テリヤキチキンバーガー」(6.8%)
4位「モスチーズバーガー」(6.5%)
5位「海老カツバーガー」(4.7%)
(以下略)

Q. 前問で選んだモスバーガーの定番メニューが好きな理由を教えてください

■「モスバーガー」
・「一番初めに食べたメニューでそれ以来、一番好き」
・「昔からある、そのままのモスバーガーが美味しい」
・「定番かつ一番シンプルで、食べやすい」
・「フレッシュトマトとミートソースの組み合わせが美味しいので」
・「シンプルなバーガーですが、毎回食べても飽きないし、美味しい
・「モスは長年好きなので、なかなか1つには選べないが、やはりモスバーガーか。他チェーン店の基本ハンバーガーとは明らかに違うジューシーさ、ソースの旨さがその理由である」(一部省略)

出典:モスバーガーで最も好きなバーガーメニューは? 1位は納得の●●! – マイナビニュース(2020年6月7日配信)

基本メニューの人気が高い理由は、理念からもうかがえます。創業者の櫻田慧氏は「満腹の状態で食べても美味しいと感じられる商品こそが本当に美味しい食べ物である」という考えを持ち、商品開発を行ってきました。この信念こそが、おいしさにつながっているのです。

だからこそ、私は今のモスバーガーの状態がとても「惜しい」と感じられるのです。もっと大きく伸びるポテンシャルがあるはずですが、経営がそれを実現できていないのです。

マックと同じ土俵で戦うな

モスバーガーの経営が惜しいのは、マーケティングのやり方を間違っているせいだと思います。

最近は、お笑いコンビ「ぺこぱ」を採用した「モスライスバーガー」のCMをよく見ます。これは明らかにマクドナルドの「ごはんバーガー」に対抗するものです。マクドナルドのごはんバーガーは人気化しすぎたため、3月に早期販売終了となりました。

もちろん話題性のために似たような商品をぶつけてみたり、新商品を開発することは否定しません。それで一時的に売上が伸びることもあるでしょう。

しかし、モスバーガーはマクドナルドと同じ土俵で戦ってはいけないのです。資金力が違いますからCMでは負けてしまいますし、そもそも顧客が求めるものが違います。

顧客がマクドナルドに求めるものは「楽しさ」でしょう。女子高生がポテトをつまみながらダラダラするとき、目新しいハンバーガーが彼女たちを惹きつけます。おもちゃがメインのハッピーセットなら、ハンバーガーのクオリティはそこまで求められません。

一方、顧客がモスバーガーに求めるのは「美味しさ」「安心感」「健康」ではないでしょうか。

国産野菜にこだわり、マクドナルドが安値競争に走った時期も、値下げせずクオリティを維持しました。マクドナルドを毎日食べていると健康に支障をきたしてしまいそうですが、モスバーガーなら大丈夫だという気がします。

すなわち、目新しさよりも「日常」に焦点をあてた方が良いのではないかと思うのです。

Next: この戦略で成功したのが、ケンタッキーです。これまでクリスマスやお正月――



ケンタッキーは「日常使い」を狙って復活

この戦略で成功したのが、ケンタッキーです。

【関連】ケンタッキー「脱クリスマス」で業績絶好調、なぜ短期間で改革できた?=栫井駿介

これまでクリスマスやお正月など「非日常」の需要にばかり偏っていることが大きな問題となっていたのですが、「500円ランチ」など日常での使い方を提案した結果、閑散期の売上が伸び、業績が大きく改善したのです。

「目新しさ」に対する需要は、一時的なもので終わってしまいます。しかし、「日常」で満足感を与えることができれば、マーケティングをせずとも自然とリピートしてもらえ、長期的な売上に繋がります。

モスバーガーが目指すべきは「駅前の定食屋」なのです。

顧客が望むことは何なのか?

それでは、どのような方法で顧客に訴えたら良いでしょうか。ここで役立つのが、マーケティングにおいてよく使われる「ドリルと穴」のたとえです。

今、あなたがホームセンターでドリルを買おうとしています。店員はどのドリルが良いか、モデルごとの違いを詳細に說明してくれます。回転数やドリルの強度の話をよくわからないままに聞かされるのです。

しかし、あなたは別に素晴らしいドリルが欲しいわけではなく、板に穴をあけたいだけなのです。この場合、顧客が求めているのはドリルではなく、ドリルであける「穴」なのです。

それなら、マーケティングでやるべきことは変わってきます。店員はどのドリルが素晴らしいかではなく、簡単な穴のあけ方を説明しなければなりません。そうすれば、顧客は用途に合ったドリルを買えるでしょうし、本当に必要だったのはドリルではなくキリだと気づくかもしれません。

これをモスバーガーにあてはめます。

顧客は商品がいかに安心・安全の認証を受けているかを知りたいわけではなく、マクドナルドと比較検討したいわけでもありません。ただ毎日の食事を手軽においしく済ませたいと思っているだけなのです。

Next: ケンタッキーが行ったように、基本メニューで構成される「お手軽ランチ――



手軽で美味しいネット注文はいかがですか?

ケンタッキーが行ったように、基本メニューで構成される「お手軽ランチセット」などはどうでしょうか。新型コロナウイルスの影響でテイクアウト需要も高まっていますから、「お持ち帰りパック」にするとより良いかもしれません。

実は、モスバーガーは昔から電話注文を受け付けていました。ネット注文も少なくとも2015年には導入され、最近はじめたばかりのマクドナルドに先行しているのです。

ネットで事前注文し、店頭で受け取る方法が顧客の頭にあれば、順番を待つことなく受け取ることができます。冒頭での話のように注文を諦める必要もなくなり、簡単に注文できるならリピーターも増えるでしょう。

そろそろマクドナルドにも飽きてきた頃でしょう。このへんで「新しい日常」として手軽で美味しいお持ち帰りランチはいかがでしょうか。ネット注文なら待たずに受け取ることができます。


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image by:Osugi | O n E studio / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年6月29日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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