マネーボイス メニュー

海外紙は安倍“forgiveness”辞任と報道。菅・岸田・石破ほか次期首相候補の評価は?=原彰宏

安倍首相の電撃辞任について、ワシントンポストは「国民に『許し』を求めた」という表現を使って報じている。次期首相候補についてのNYタイムズの評価も辛辣で興味深い。海外メディアの報道を紹介しながら、安倍政権の総括を行いたい。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

【関連】“菅新総理”のスガノミクスは財務省に勝てる?誰もが嫌がる安倍政権の尻拭い=澤田聖陽

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2020年8月31日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

病状悪化の時点で辞めるべきだった

8月28日、安倍総理が辞任を発表しました。辞任理由として病気を挙げており、症状が悪化したのは6月末だと言われています。

国会を開かないし、議論の場にも出てこなかったのですが、もし病気が辞任の理由なら、そのときにやめる判断をすべきだったのではないでしょうかね。

佐藤栄作内閣の在任日数を超えてから辞めるのですか。阪神の藤川球児投手は、チームに迷惑をかけるからと、あと5セーブ挙げれば名球会入りなのに引退を表明しました。えらい違いだなと思ってしまいます。

未だに議員辞職しない、河合夫妻や、カジノ疑惑の秋元議員なども含め、誰のための議員という地位なのかと考えてしまいます。

安倍総理が辞任したら、日本は何か変わるのでしょうか。

猛烈な支持者である極右グループの担ぐ旗印がなくなるというのはあるでしょうが、日本経済にとって、あるいは社会のあり方にとって、何か大きな変化はあるのでしょうか。

実現されなかった数多のキャッチフレーズ

この疑問に対して逆に質問をしたくなりますが、日本は7年以上もの安倍長期政権で、いったい何が変わったのでしょう。何か日本は特別な方向に導かれたのでしょうか。

「地方創生」「女性活躍」「1億総活躍」……キャッチフレーズだけはいっぱいありました。

魅力あふれる地方を想像していく(地方創生)
女性が輝く社会の実現も安倍内閣の大きなチャレンジだ(女性活躍)
少子高齢化という構造的な課題にチャレンジする(1億総活躍)

どれも掛け声ばかりで何も具体的なものは示されてはいないし、そもそもこれらの政策って、本当に着手されたのでしょうか。

「働き方改革」。これは少しは動いたようにも思えますが、働き方改革が、残業時間がどうとか
ブラック企業がどうとかの話に終始した議論になっていて、本来は「時間の使い方」を議論すべき話ではなかったでしょうか。

企業に雇ってもらえない人を、今までは「プータロー」と呼んでいたのが「非正規雇用」とか「フリーター」と、呼ばれ方が格好良くなったにすぎないのではないでしょうか。

「時間の使い方」「時間価値の考え方」そういったことを考えるのは、日本人は苦手なのでしょうかね。皮肉にも、コロナ禍で働き方改革の本質はっきりとしたのではないでしょうか。

「メンバーシップ型」か「ジョブ型」か。こっちの方が、働き方改革の本質のような気がするのですがね。

Next: 株価上昇の「成果」はタイミングが合っただけ。海外メディアの評価は



株価上昇の「成果」はタイミングが合っただけ

安倍政権の成果を「株価上昇」と言われます。

民主党政権末期当時の世界情勢は、各国の中央銀行がリーマン・ショック後の経済立て直しに大奮闘して、歴史的な大型量的緩和が行われていました。金融機関を助けるための緊急資金援助システムもようやく出来上がって、マネーの動きが世界的にリスク資産に流れて行き始めた、まさに株価が大きく反転するタイミングであったのです。

そのタイミングで安倍政権が誕生したわけで、アベノミクスはまさに「漁夫の利」を得たということで、なにも安倍総理の功績でもなんでもありません。

安倍政権ができる前に、すでに大きく円安に振れて株価は上昇していました。世界のマネーの動きを日本株に誘導したのは日銀黒田総裁で、強力なインフレ目標2%導入のアナウンスにありました。

安倍政権がまだなにもしていない状況で、単なる期待感だけで株価が上がったということです。

海外メディアの共通認識は「アベノミクスは終わった」

もともと「アベノミクス」という表現は、レーガン大統領による「レーガノミクス」から来ていると言われていました。もともと「レーガノミクス」は、共和党大統領候補者戦を争ったジョージ・H・W・ブッシュが副大統領就任前に「呪術経済政策(ブードゥー・エコノミー)」と揶揄したもので、本来は「悪口」だったのですね。

今の海外メディアのアベノミクス評価は、「アベノミクス唯一の効果である株価上昇はコロナで一気に吹っ飛んだ」と述べています。海外メディアの共通の概念は、「アベノミクスはもう終わった」というもののようです。

だから、安倍政権が終わっても「何も変わらない」というのが答えです。

安倍長期政権下では、日本社会は何も変わっていません。なので、ようは「変わりようがない」ということでしょうか。

安倍政権ができなかった(先送りした)として、以下が挙がります。

・構造改革
・成長戦略
・人口減少対策
・移民政策

この重大な課題は、何ひとつ手を付けられずに先送りされました。

Next: 安倍「forgiveness」辞任?次期首相候補を海外メディアはどう報じたか



国民に「許し」を求めた?ワシントンポストの安倍首相辞任報道

海外メディアの安倍総理辞任に関しての報道は、日本でのものとはかなり違う内容になっています。

「forgiveness」。米紙ワシントンポストは、安倍総理辞任報道で、カギカッコ付きでこの言葉を用いています。直訳すると「許し」という意味で、本文は以下となっています。

Abe asked for“forgiveness”that he was leaving office wituout achieving three closest to his heart amending the Constitution, bringing backjapanese citizens abducted by North Korea, and achievine a peace treaty with Russia to resolve a territoriaal dispute.

出典:Japanese Prime Minister Shinzo Abe resigns, citing ill health – The Washington Post(2020年8月28日配信)

このワシントンポストの記事を要約すると、

「安倍総理は憲法改正、北朝鮮拉致被害者家族救済、北方領土返還ができなかったことに対して『許し』を求めている」としているのです。

安倍総理は「asked for “forgiveness”」と、辞任を許してもらおうとしているのですかね。

日本のメディアで「許し」という表現は、どこも使ってはいなかったでしょう。ようは、安倍総理は任期中に“何も”とは言いすぎでしょうが、重要公約はできなかったということを示しているのでしょうかね。

安倍政権は何を残したのか。あえて“負”の部分には触れませんが、“功”の部分を探すのは難しそうです。

次期首相候補を海外メディアはどう評価した?

この流れで、海外メディアが次期総裁候補と言われている政治家をどう表現しているかも見ていきましょう。

使う媒体は「ニューヨークタイムズ」です。後継者は英語で「Successor」と表現します。
※参考:Shinzo Abe’s Resignation Prompts Speculation About His Successor – The New York Times

<菅官房長官>

菅義偉氏を「leading candidate(最有力候補)」として紹介しています。

さらに「inheriting both the good and bad parts of his legacy(〈総理になったら〉安倍総理の良い部分も悪い部分も引き継ぐ〉」とテレビでもおなじみの三浦瑠麗氏のコメントを引用。三浦氏はこの安倍総理のレガシーを引き継ぐこと「strong point」でもあり「weak point」でもあるとしています。

また、菅官房長官の「叩き上げ」議員であることを「rags-to-riches」と表現。高校卒業後、「cardboard factory(板紙工場)」で働いて夜間の大学に通ったことも紹介しています。

<岸田政調会長>

岸田文雄氏を「His father and grandfather were politicians(彼の父親も祖父も政治家)」と3代続く政治家家系であることを紹介し、岸田氏を表現する言葉として「he has been loyal to Mr.Abe(安倍総理に忠実な人)」と表現しています。

また、岸田氏を表現する言葉に「geography(地理、地形)」という言葉が使われています。岸田氏と安倍氏は、中国地方出身者で、もし岸田氏が総理になると「また中国地方から」ということが良くないとしています。

Mr.Abe and Mr.Kishida are both from the Chugoku region of Honshu, Japan’s main island, which has supplied many of the country’s previous prime ministers. Having yet another prime ministers from the Chugoku, even if he is from a different faction, might rub folks the wrong way,

出典:Shinzo Abe’s Resignation Prompts Speculation About His Successor – The New York Times

上記のように表現されています。面白い観点ですね。日本では見かけない論点です。

Next: 「安倍総理は石破氏が嫌い」ストレートに書く海外紙。麻生氏の評価は?



<石破元幹事長>

石破茂氏のことを「The current prime minister is said to dislike Mr.Ishiba(安倍総理は石破氏が嫌い)」だと、まあ直球表現ですね。

ただ石破氏は政権側の人ではないので、北方領土問題が解決できなかったことの責任を問われる立場ではないと表現しています。

<河野防衛大臣>

ニューヨークタイムズでは、河野太郎氏を「maverck(異端者)」と表現しています。原文をそのままで載せますと

「liberal maverick who belongs to a new generation of Japanese politicians」となっています。なんかすごいですね。

さらにこんな表現もあります。

「A LIBERAL MAVERICK Taro Kono,who has made a name as a nonconformist, has long had an eye on the top job.」。「nonconformist」は直訳すると「不適合」ですからね。

また「an eccentric “lone wolf.”(風変わりな“孤独な狼”)」とも表現しています。すごいですね。

<麻生財務大臣>

最後に、麻生太郎氏は「gaffe(失言)」という表現が出ていて、ナチスドイツという言葉を過去に2回使ったことを紹介しています。「女性蔑視」の表現があったことも述べています。ニューヨークタイムズは、麻生氏は総裁選には出馬しないだろうとしています。

海外メディアのほうが、真実に近づいていることが多いのかもしれません。がんばって英語にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。海外メディアのチェックは必要だと思いますね。

続きはご購読ください。初月無料です

【関連】「一流企業の男と結婚しろ」毒親の言葉が子どもを生き地獄に落とすワケ=鈴木傾城

【関連】PCR検査を受けるとリストラ対象に?コロナ差別が日本経済を死に追いやる=今市太郎


※本記事は、らぽーる・マガジン 2020年8月31日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込330円)。

2020年8月配信分
  • 「安倍総理辞任」(8/31)
  • 「株価だけは異様に強い状態」(8/24)
  • 「ワクチン開発を待つマーケット」(8/17)
  • 「金価格が高騰」(8/10)
  • 「日本の景気はかなり厳しい…」(8/3)

2020年8月のバックナンバーを購入する

【関連】日本人は本当に生産性が低かった。私たちの年収が世界最速で下がるワケ=吉田繁治

【関連】「彼氏にしたい職業」上位はぜんぶ地雷、玉の輿に乗りたいなら○○な男を選べ=午堂登紀雄

【関連】中国の「超異常気象」は天罰か?災害集中は必然、超高齢化で亡国へ=勝又壽良

らぽーる・マガジン』(2020年8月31日号)より一部抜粋
※タイトル、本文見出しはMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

らぽーる・マガジン

[月額330円(税込) 毎週月曜日]
絶対に知るべき重要な情報なのに、テレビなどが取り上げないことで広く知らされていないニュースを掘り起こし、また、報道されてはいるけどその本質がきちんと伝わっていない情報も検証していきます。情報誌は二部構成、一部はマーケット情報、マーケットの裏側で何が動いているのかを検証。二部では、政治や時事問題、いま足元で何が起こっているのかを掘り下げていきます。“脱”情報弱者を求める人、今よりさらに情報リテラシーを高めたい人はぜひお読みください。CFP®資格の投資ジャーナリストが、毎週月曜日にお届けします。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。