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孫正義のご乱心。もはやソフトバンクGの株を買うのは博打と同じだ=栫井駿介

ソフトバンクグループがオプション取引によって、アメリカのハイテク株を取引していたということが市場で話題になっています。これがこの8月株式市場が大きく値上がりする要因となったとも言われていますが、さらにこれについて私が深く調査を進めた結果、もしかしたらとんでもないやばい事実に辿り着いてしまったかもしれないという状況になっています。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

「オプション」とは

まずこのニュースです。『ソフトバンクグループ米ハイテク株、オプションを1ヶ月に「大量」購入』とBloombergが報じています。この8月の1ヶ月間で、およそ4,000億円分のオプションを購入したということが報じられています。

それとは別にソフトバンクグループが現物でアメリカのハイテク株を4,000億円ほど購入していたということが、開示資料から明らかになりました。これに加えて、冒頭のオプションを4,000億円分買ったということになります。

どういうことか、まずオプションの取引というのを簡単に説明します。

オプションというのはいわゆる金融デリバティブ商品の1つなんですが、単純に株を買う場合には上がったり下がったりするだけなんですが、オプションというのはその価格によって、損益の図が変わってくるものになります。

ソフトバンクが買ったのはこのコールオプションの買いというものですが、損益図としてはこういう形になります。

どういうことかというと、このオプションの価格100ドルというのは、100ドルをソフトバンクが金融機関に払い、特定の価格で株式を買う権利を得るというものです。

つまり、この権利行使価格が1,000ドルだとすると、1,000ドルを超えたら自分で選んでこの権利を行使してこの株を1,000ドルで買いますという意味を表しています。

例えば、テスラのオプションを買ったとします。

テスラの株価が2,000ドルになった場合は、その2,000ドルの株を1,000ドルで買えることになるので、オプションの価格の100ドルを引いた900ドルがまるまる利益になります。

手元には2,000ドルに値上がりしたテスラの株式が残ります。

一方で、1,000ドルよりも上がらなければソフトバンクは権利を行使することはないので、最初に支払った100ドルがそのまま返ってくることはなく、100ドルの損失が確定するということになります。

損益図で表すと株価が一定のところまではずっとマイナスなのですが、この権利行使価格を超えたらあとはひたすらプラスになるということで、例えばこの2,000ドルになった場合を考えると今1,000ドルで買って、これが2,000ドルになったとしても2倍になったということですが、このオプションを使えば100ドルの原資で900ドルの利益をあげることができる、本来2倍だったところが9倍の利益を上げられるということになります。

いわゆるレバレッジ商品です。

ソフトバンクはかなり危険な取引をやっていた?

ただし下がった場合の損失も限定されるので、これが損失限定のレバレッジ取引ということになります。損失が限定されるならそれでいいのではないかと思うかもしれませんが、ここに落とし穴があります。

例えばソフトバンクのように4,000億円を買っていたら、これが1,000ドルを超えなかったとしたら、その4,000億円は丸々損失になってしまいます。

つまり株価下がらなくても上がらなかったというだけで、4,000億円損してしまう可能性があった、それほどリスクの大きい取引をソフトバンクグループはやっています。

オプションの仕組みを理解するのは難しいのですが、とにかくソフトバンクはこれほど危険な取引を行っているということはまずご理解いただければと思います。

Next: ソフトバンクが相場を押し上げた?孫社長はご乱心か



ソフトバンクのオプション取引が相場全体を押し上げた?

このソフトバンクの4,000億の買いというのは通常では考えられないほど、巨額のオプションの取引でした。

これが相場全体を押し上げたとも言われていて、その仕組みをこれからご説明いたします。

まずこのサラリーマン風の人が金融機関だと思ってください。

ソフトバンクグループにオプションを販売しました。

金融機関としては先ほど説明したように100ドルで売ったすると、一旦は100ドルは丸々利益になります。

そして株価が上がらなかったら確実にノーリスクで儲けるということになりますが、一方では先ほどように株価が上がってしまうとそれを売った金融機関は、ソフトバンクと反対の損益ということになるので、損失が今度は青天井になってしまうということになります。

しかし金融機関は潰れるわけにはいかないので、損失を抑えるためにもし株価が上がった場合に損を抑えられるようにしようと思うと、現物株を持っていれば株価が上がった分その現物株が上がって相殺されるので、先ほど売ったような現物株を買うということになります。

ちなみにオプションというのはレバレッジ取引なので、先ほど4,000億をヘッジしようと思ったらそれを10倍ぐらいの株を買わないといけないということになります。

先ほどのオプションの反対側にある株式というのを、市場でどんどん買っていかなければならないということになります。

その結果、Amazonやテスラ、ネットフリックス、グーグルといった、ハイテク株を金融機関が買わなければならないという状況になって、この8月にコロナ禍において、株式事情が不安視される中でどんどん押し上げる要因の1つになったのではないかと言われています。

NASDAQ 日足(SBI証券提供)

「インターネット革命」の目標はどうした?

ここまではニュースなどでも取り上げられている話ですが、ここから先は私の独自の分析です。

ソフトバンクグループといえば、パソコンソフトの販売、あるいはパソコン情報誌などの販売ということで成り立った会社ですが、やがてアメリカのYahooを借りて、日本でYahooを立ち上げようという出資から始まっていて、さらにYahoo! BB、つまり日本に高速インターネット普及させようということを頑張ってきて、同時にインターネット革命を起こそうと非常に頑張ってきた会社でもあります。

ボーダフォンを買収して携帯電話に乗り出してインターネット革命を推し進めてきた、日本におけるITの貢献者であることは間違いありません。

しかしある時、大きく風向きが変わりました。

それがアリババへの投資です。

孫社長は、当時のアリババの社長にこういった事業を立ち上げたいという話をされて、ポケットマネーから多額の投資をしました。結果的には、そこで出資した物が何百倍にも化けて多額の利益を上げることになりました。

そこから、孫社長のマインドが変わってきたと思います。

インターネット革命をせっせとやるよりも、こうやって投資をした方が一気に儲けられると考えたのではないかと思います。

やがては10兆円ファンド、いわゆるソフトバンクビジョンファンドを立ち上げていくのですが、それが必ずしもを上手くいったというわけではなくて、最近ではWeWorkや、OYOなどそういったものに投資して、実は中身のあまりないような会社だったりして、損失を被っていたりします。

この新型コロナショックでもそれが顕著に出て、一時期大きく評価を下げました。

しかしそれにも懲りずに直近ではこの投資運用子会社を設立することまで行っています。

これは余剰資金の運用とアセットの多様化ということ、およそ資本金600億円というところでやっていますが、投資対象を見てください。

主に流動性の高い上場株式等ということになっています。

ソフトバンク孫社長の元々の目的はインターネット革命を起こすことだったと思います。

実際にそれを成し遂げてきましたが、それが例えばビジョンファンドでベンチャー企業に投資するということであれば、なかなかお金の周りにくいところに、資金面で手助けをしてインターネット革命を加速させるという言いわけはできましたが、一方で上場株に投資するとなると話が変わってきます。

まずその上場株への投資ということは市場で買うということなので、企業そのものに直接お金が周るというわけでもありませんし、上場しているような企業だったら何もしなくても自分で羽ばたける会社だったりします。

そこにわざわざ会社を立ち上げて投資するというのは、今の本来のソフトバンクのあるべきインターネット革命というところからはかけ離れてしまっているのではないかと感じます。

ましてこのオプションというレバレッジをかけた取引を行っているというのは、本来のソフトバンクの姿からはもはや考えられない状況となっています。

Next: 役員の1人がソフトバンクを食い物に?泥を被るのは一般株主



ファンド責任者に「よからぬ噂」

ソフトバンクの役員一覧を見るとこんな人がいます。

ラジーブ・ミスラという取締役副社長で、この人がファンドを取り仕切っている状態ということになっています。

実はこの人の評判があまり良くなくて、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事ですが、『ソフトバンクファンド責任者、出世の陰に妨害工作』と、このミスラ氏はメリルリンチやドイツ銀行など金融機関を渡り歩いてきた人でバリバリのエリートではありますが、この人は孫社長とは10年以上、二人三脚でやってきています。

ソフトバンク社内での出世のためにライバルに対して、いくつもの妨害工作をしてきたという風な記事が出ています。それは、ライバルに対してよからぬ噂を流したですとか、かつてソフトバンクの副社長として招かれたニケシュ・アローラさんという同じインドの方に対して、ハニートラップを仕掛けようとしたということも報道されています。ソフトバンク自体は否定していますが、火のないところに煙は立たずなのではないかと思います。

これが直接影響したかどうかは分かりませんが、2016年にはアローラ氏は退職に追い込まれています。

さらに最近ではビジョンファンドの幹部が2月に退任したということもありましたし、直近ではなんとコンプライアンス最高責任者のフェントレス氏という方が、直近の9月に退任したということが報道されています。コンプライアンスの責任者が辞めるというのはただごとではありません。よっぽどヤバイことをやらかしているのではないかという風に見えます。

実際、ソフトバンクが危険なオプションの取引をやっているということ自体が、そもそもコンプライアンス上いかがなものかというところもあります。

泥を被るのは一般株主

ここまで辿ると、ミスラ氏の考えが少し透けて見えるような気がします。つまり、彼はソフトバンクをある意味で食い物にしようとしてるのではないかということです。

もともと金融機関の人間なので、ヘッジファンドの仕組みというのには非常に詳しいと思います。このヘッジファンドというのは一瞬でも大きく儲ければ、多額のボーナスをもらって、そこから後のことは知らないと言って、お金を持ち逃げするような人達、悪い言い方をすればそういう部分もあります。

しかもこのミスラ氏というのは、レバレッジをかけることは大好物だというわけです。

今まさにソフトバンクは携帯電話会社の株を売って資金を確保していますけれども、その確保した資金を使ってレバレッジをかけて、一瞬でも多額の利益を上げることができれば、このミスラ氏には多額のボーナスが入ることになります。

一方で、もし失敗して先ほどように丸々損失にあって、4,000億円の損失を被ったとしても、クビになったらそれまでで、別に今まで支払われた報酬を返す必要もありません。

そして、そのリスクを誰が取るのかというと、その他の一般株主ということになります。

Next: ソフトバンクグループは博打の対象?聡明な投資家なら避けるべき銘柄



ソフトバンクグループは博打の対象?

ソフトバンクはこの報道でこれだけ危険な取引をしているということがわかって、ソフトバンクの株価は直近で大きく下げています。

ソフトバンクグループ<9984> 日足(SBI証券提供)

また孫社長はいつも決算説明会で当社の株価は、持っている株式に対して大幅に割り引かれているというようなことを言っていますが、ただこのようなリスクを高い取引を行っているということになると、もちろん割り引かれても仕方がないということになります。

アメリカの株式市場にはウォーレン・バフェットが買ったら株価が上がるという、バフェットプレミアムというものも存在しますが、一方でこの孫さんがこういったリスクの高い取引を許容している限り、ソフトバンクグループの株式というのは慎重な投資家しからしたら、とても買えるものではありませんし、もしこの取引が失敗して多額の損失を被ることになったとしたら、株価の下落というのは一層加速するということになります。

もはや私のような慎重な投資家からしたら、このソフトバンクグループは博打の対象でしかないという風に見えます。

もし慎重な取引を行いたいと思っていて、このソフトバンクグループ持っている方がいたら、この現状を鑑みて判断されることをお勧めいたします。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)

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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2020年9月14日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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