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「金相場バブル崩壊」論者が見落としていること。真の上昇相場はこれからだ=江守哲

2,000ドル超からの調整局面で、「金相場のバブルは崩壊した」などと指摘する向きもいるようだが、今回の金相場はそもそもバブルにさえなっていないというのが私の考えである。(『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』江守哲)

本記事は『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』2020年10月5日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

金相場は反発

金相場は反発した。9月29日の米大統領選候補者による第1回テレビ討論会に注目が集まった。共和党候補のトランプ大統領と民主党候補のバイデン元副大統領による討論会は、「史上最低」と揶揄されるほどのひどい内容となり、市場関係者の失望を誘い、株価が下落した。また、投資家が安全資産であるドルへ逃避したことも、金相場の上値を抑えた。

さらに、米国での追加の新型コロナ救済法案に対する懸念も高まり、9月の金相場は月間ベースで16年11月以来、4年ぶりの下落率となった。一方で、ドル指数は19年7月以来の上昇率だった。ただし、金相場は四半期ベースでは8期連続の上昇となった。

その後は堅調に推移し、再び節目の1,900ドルを上回る水準で推移した。新型コロナウイルス禍で打撃を受けた米経済のテコ入れに向けた景気刺激策への期待が再び高まったことや、ドル安が金相場の押し上げにつながった。新たな新型コロナ経済対策に関するペロシ米下院議長とムニューシン財務長官の間で行われた協議に関心が集まった。

週末は下落した。荒い値動きの中、1,900ドルの水準をわずかに割り込んだ。ドル高が金相場の上値を抑えた。それでも週間ベースで8週間ぶりの大幅上昇となっている。一方、トランプ大統領が新型コロナウイルスの検査で陽性反応を示したことは市場のリスクセンチメントを損ねる結果となり、週末は1,989ドルで引けている。

投資家・投機家の動向

金相場は世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は10月2日に1,275.6トンとなり、9月25日時点の1,266.84トンから増加した。1日には1,276.19トンまで増加する場面もあった。

COMEX金先物市場における大口投機筋の9月29日時点のポジションは24万3,659枚のネット買い越しで、前週から買い越し幅が2万4,599枚拡大した。買いポジションが7,091枚増加し、売りポジションが1万7,508枚減少した。投機家は過去3週間で買い越し幅を拡大させていたが、さらに拡大させていることから、強気スタンスに転じた可能性が指摘できる。

<投機筋ポジション(9月29日時点)>

<COMEX金先物>

ネットポジション:+24万3659枚(前週比+24万599枚)
ロングポジション:+31万6106枚(前週比+7,091枚)
ショートポジション:+72万447枚(前週比-17万508枚)

<COMEX銀先物>

ネットポジション:+4万730枚(前週比+1,783枚)
ロングポジション:+7万4,631枚(前週比-378枚)
ショートポジション:+3万3,901枚(前週比-2,161枚)

<NYMEXプラチナ先物>

ネットポジション:+9,824枚(前週比-436枚)
ロングポジション:+2万7,054枚(前週比-3,364枚)
ショートポジション:+1万7,230枚(前週比-2,928枚)

<COMEX銅先物>

ネットポジション:+5万4,062枚(前週比-1万3,779枚)
ロングポジション:+11万4,003枚(前週比-9,582枚)
ショートポジション:+5万9,941枚(前週比+4,197枚)

金相場は「長期的な上昇基調」が維持された

金相場は反発基調が続くかに注目している。

今回は1,850ドルにある重要なサポートを維持できるかを注視していたが、ひとまずサポートされ反発の動きにある。節目の1,900ドルに絡む動きになっているが、今週は1,915ドルを超えるかに注目したいと考えている。

もっとも、これはあくまで短期的な動きを見るものであり、しっかりと底打ちをして反発基調に入るかを確認するための重要な水準であると考えている。

より重要なことは、長期的なトレンドが続いているのかを確認することであろう。今年の金相場は、7月後半から急激に上昇相場が強まり、1カ月もたたないうちに節目の2,000ドルを超えた。

しかし、この動きはあまりに早すぎたということであろう。今回は1,850ドルまで調整したが、今年の上昇トレンドが維持されていることが確認できる。したがって、今回1,850ドルを維持したことは、長期的な上昇基調が維持されたことを意味する。

Next: 「金相場のバブルは崩壊した」は誤り。まだバブルにさえなっていない



金相場はまだバブルにさえなっていない

2,000ドル超からの調整局面で、「金相場のバブルは崩壊した」などと指摘する向きもいるようだが、今回の金相場はそもそもバブルにさえなっていないというのが私の考えである。

バブルの定義は人それぞれであり、明確なものがあるわけではない。ただし、資産価格の動きに関していえば、私は「10年から15年の期間に、価格が10倍から15倍に上昇」したケースをバブルと定義づけている。

このような上昇相場になる市場や銘柄は、実際にはそう多くない。過去のグローバル市場において、このような上昇を見せたケースは、1980年以降ではわずか5回である。1980年の金価格高騰、1989年の日本の資産バブル、2000年のドットコムバブル、2008年のコモディティバブルがそれらに相当するだろう。思い出せば、どれも歴史的な大相場だったといえる。そして、これらの大相場の上昇期間はおおむね10年から15年で、価格は10倍から15倍になるのが平均的な動きである。

また、直近の米ハイテク株の急騰もこれに相当するだろう。今回の上昇相場はすでに上昇期間が10年に達しており、資産価値は38倍になっている。これまでの定義に当てはめれば、明らかにバブル相場といえる。無論、今後も高値での推移を続ける可能性は否定できない。

一方、今回の金価格の上昇は、8月の高値を基準にしても、2倍にもなっていない。つまり、バブル相場と呼ぶにはあまりに小さい上昇といえる。

私が考えるバブルの定義に当てままるには、金価格は2025年から30年にかけて、最低でも1万ドルを超える必要がある。したがって、いまの金市場は、とてもバブルの状態とは呼べないというのが私の考えである。

バブル化するのは「これから」

さて、今回の金相場の上昇基調が、最終的に上記のようなバブル化して終わる可能性は十分にあるのではないかと考えている。

その最大の理由は、米国の財政拡大と緩和的な金融政策の継続にある。新型コロナウイルス感染拡大に対応する追加経済対策について、与野党協議が進められている。現時点では、両者の考えに隔たりはあるものの、いずれこれは決めざる得ないだろう。

拡張的な財政はさらに悪化し、これが金価格を押し上げることになることは、これまでの金価格との連動性を見れば容易に理解できる。特に近年の米財政赤字を米GDPで割ったレシオと金価格はほぼ同じ推移をたどっている。GDPの伸びが鈍化する一方、財政赤字が拡大する可能性が高いことを考えれば、このレシオはますます悪化し、金価格の押し上げられることになるだろう。

また、FRBが、インフレが2%に達したあとも、その水準を緩やかに超過するようになるまで、引き締めを行わないことを宣言したことも非常に大きな材料である。

私はFRBにはインフレを微調整する能力はないと考えている。上記のようなFRBの考え方には、「中央銀行は経済・市場を意のままに操れる」といった前提あるように感じる。しかし、2%の物価目標さえ達成できない中銀が、自分たちがインフレを自在に操れるかのように語ることに強い違和感がある。

インフレ率を2%まで引き上げ、さらに超過させることができていないのだから、FRBが思うようにインフレ率は操れないと考えるのが自然であろう。今後米経済が回復し、失業率が低下した場合でも、政治的な圧力から引き締めはできないだろう。そうなると、インフレ上昇が起きた場合でも、政治的な圧力があることから、FRBは引き締めができないと言い訳できることになる。

こうなると、インフレが加速してしまい、FRBの手に負えなくなることが想定されるのである。許容する物価上限がオーバーシュートを許さない上限だった時代には、インフレが上限を超えないように、上限に達する前に金融引き締めを始めていた。それでも、インフレを思い通りに操るのは至難の業だった。しかし、今回はオーバーシュートを許すのだから、インフレ抑制のための利上げは必然的に遅れることになるのは必至である。

さらにFRBは、「まだ経済がよくないから」ということで、利上げを遅らせるための「言い訳」ができる。

このように考えると、インフレが高まる材料は揃っているといえる。あとは、実際にインフレになるかどうかにある。このような状況で財政悪化が加われば、金価格はさらに上がりやすくなることはいうまでもないだろう。

Next: 米ドルが弱くなるのは必然。金の価値はさらに上がっていく



米ドルが弱くなるのは必然

コロナ危機により生じた莫大な債務が経済のマネーサプライを押し上げ、それが支出とインフレに拍車をかけるとの考えは、今後もメインシナリオになるだろう。いうまでもなく、米国はどの国よりも多くのマネーを供給している。そのため、米ドルは弱くならざるを得ないだろう。

また、市場はトランプ大統領が新型コロナに感染したことに、かなり敏感に反応している。これまでの投資戦略について、見直しを図る投資家も多いとみられている。再選を目指す1カ月後の大統領選に向けて、この状況はトランプ陣営にとって大きな痛手であることはいうまでもない。無論、これが民主党候補バイデン氏の勝利に向けた投資家の対応につながるだろう。

11月の米大統領選の結果判明が遅れ、選挙後の数日間、もしくは数週間、各国の株式や債券市場が混乱するリスクが当然のように意識されることになる。市場関係者は、トランプ氏の選挙活動が今後制限され、大統領選で勝利する可能性が低下するとの見方に急速にシフトしている。

市場のボラティリティの上昇に備え、ポートフォリオのリスクを減らし、ヘッジを増やすだろう。そうなれば、金への関心も高まらざるを得ないだろう。

金相場の気になるアノマリー

ちなみに10月の金相場は、従来からあまりパフォーマンスはよくない。しかし、11月から2月はきわめて高い上昇率になっていることが、過去データからも確認できる。

このアノマリーが今年も通用するかは明確なことは言えないが、10月に安値があれば、その後の上昇を想定しながら買いを検討するのもよいだろう。

とにかく、大きな押し目を逃さないことが、今後の金市場への対応において最も重要といえるだろう。

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マーケット・ヴューポイント〜「トランプ大統領が新型コロナに感染」

米国市場~ハイテク株の動きに注目

欧州・中国市場~ユーロ圏経済の動きは緩慢

日本市場~日本株は底堅さを維持

為替市場~ドル高基調が継続

コモディティ市場~金は反発、原油は軟調

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本記事は『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』2020年10月5日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した米国市場日本市場為替、原油各市場の詳細な分析もすぐ読めます。

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江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』(2020年10月5日号)より一部抜粋
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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。

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