コロナワクチンの治験に参加中の私に、妻が有効率90%とはどういう意味かと質問してきた。報道が悪いのかワクチンのことが正確に伝わっていないので解説したい。(『房広治の「Nothing to lose! 失う物は何も無い。」』房広治)
※本記事は有料メルマガ『房広治の「Nothing to lose! 失う物は何も無い。」』2020年8月8日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。
プロフィール:房広治(ふさ こうじ)
アメリカ、イギリス、香港など主要金融センターで著名な日本人投資家。留学中に外資系銀行に就職し、わずか10年で日本のインベストメントバンキングのトップとなった。投資家転向初年度に年率リターン90%以上の運用成績を出し、ファンドマネジャー・オブ・ザ・イヤーとなる。現在は、バークレー大学・ハースビジネススクール、コロンビア大学、ロンドンビジネススクール、香港大学など著名大学で、オルタナテイブ投資、ヘッジファンド、プライベートエクイテイファンド、コーポレートガバナンス、金融危機についてのゲスト講義なども行っている。
ワクチンの有効率90%・94.5%の意味
オックスフォード大学・アストラゼネカの新型コロナワクチンの治験に参加中の私に、妻からファイザーのワクチンの有効率が90%(モデルナの発表後ファイザーも同じ有効率と修正してます)とか、モデルナのワクチンが94.5%効くとか、どういう意味なのかを尋ねられました。今回はその解説を。
ワクチンは、予防医学の典型例でJennerという学者が最初に発見しました。予防医学なので、病気になってから治療して、回復した率ではありません。多くの人々が「ワクチンの有効率が90%」と言っても、理解できていないのではないでしょうか。
ワクチンの場合には、多くの人々の協力が必要となります。
例えば、モデルナの場合、3万人の協力者を、1万5,000人ずつに分け、ワクチンを与えるグループと、COVID19のワクチンとは関係のない注射をしたプラシボ・グループに分けるのです。
そのうち、プラシボグループの方は、90人がCOVID19に感染し、ワクチンを投与した方は5人しか感染しなかったということなのです。
ワクチンを打った人々がもし、ワクチンを打ってなかったら90名が感染していたはずと、推定できるため、85名が感染を予防したことになるため、85÷90で、94.5%という計算になるわけです。
どのくらいの期間で治験は行われる?
ファイザーのワクチンもオックスフォード大学のワクチンも同じフレームワークで、必ず半分の人々には、無害な、今まで何十年も使われている、他の感染症のワクチンを打ったりします。
昔は、生理食塩水を打っていたらしいが、それだと、一部の人間がワクチン投与の後の身体のだるさを感じないということで、オックスフォード大学の治験では、プラシボグループには、MenACWYという安全性が確認されており、しかし、ワクチン投与にだるさなどを敏感に反応する人々には、同じ症状が出るものを投与して、本当のワクチンであるかどうかが投与された側にはわからなくしました。
どのように期間を設定するのかも尋ねられたのですが、みなさんはどう思いますか?
オックスフォード大学の場合、治験者である我々には、1年間の協力のお願いをされました。
第3フェイズの治験を最初に始めたイギリスのオックスフォード大学のワクチンよりも、アメリカのファイザーやモデルナが治験結果を早く出せたのは、実は、時間軸で考えるのではなく、「約100人の感染者が出た時」に、ワクチンを接種させたグループとプラシボグループで、どれぐらいの割合かを調べることで結果を出せるということなのです。
ですので、感染者数が爆発的に増えているアメリカの方が、早く95名の感染者に達して、その結果をファイザーもモデルナも発表できたのです。
Next: 感染者が少ない日本ではワクチン開発は困難?東京五輪をめぐる取引
東京五輪開催には他国の治験データを受け入れるしかない?
ここから推測すると、日本のように感染者が少ないと、それぞれのワクチンの有効性を調査するのに自国のデータだけに頼っていては、来年のオリンピックまでに全国民に行き渡らせることができないでしょう。
そのため、現時点から厚労省とオリンピック委員会は話し合って、他国のデータを信じないならばオリンピック開催を諦め、アメリカやイギリスの治験データをそのまま受け入れるのであればオリンピックが開催できる、ということになるのではないかと思います。
ちなみに、今回のワクチン、初年度は、2回のワクチンを投与し、2年目から1回のワクチン投与でよいかもしれないという経験則から、もしかすると、治験者には「2年間に延長して欲しい」という話になるかもしれません。
いずれにしても、90%や94.5%という数字は立派なもので、これだけ有効性が高いのであれば、ほとんどの人々が接種を希望して欲しいと思います。
欧米はワクチン接種の拒否が多い?
最近、元々白人中心の国であったイギリスやアメリカの半数の人々が、科学的な見地からすると、かなり無知であると、私の眼には映ることが多いのです。その典型が、ワクチン接種です。
アメリカの住民、イギリスの住民、どちらもCOVID19のワクチンを接種したいというのが、半分ぐらいなのだそう。どんな数字、統計の取り方をしても、今回のワクチンを接種しておいた方が、死なない確率は、増えるはずなのです。
これに対して、アジアの国々は、どの国もワクチンに対する偏見が少なく、科学的な知識が正しいのではないでしょうか。
各社のワクチンはすべて構造? 報道は正確性を欠いている
ちなみに、今回、オックスフォード大学の治験に参加して思ったことは、報道されていることが、かなり正確性に欠けるということです。
例えば、今回、ファイザーもモデルナもオックスフォードのワクチンもすべて、同じ構造のワクチンなのです。
作り方は違うものの、なぜ同じかというと、当初から、中国の専門家が発表したコロナウイルスの分析が正確だったためだと、オックスフォード大学のホランダー教授は言います。
すなわち、トランプ大統領は、中国がコロナウイルスに関連していろいろな情報を隠していたというのは大嘘で、それを信じてそのまま報道してしまった記者たちが、なんと多いことでしょうか?
記者のウッドワード氏が録音したトランプ大統領との会話でも、トランプ大統領は、習近平氏は、最初から正直にCOVID19の危険性を訴えていたということも分かります。
Next: 中国専門家の正確な分析結果がワクチン開発を早めた
ワクチン開発を早めた中国専門家の正確な分析結果
報道されているほど中国は秘密主義ではなく、また報道されてないのは、トランプ大統領のように、自分に都合の悪い情報は操作してしまおうという西側諸国のトップがいかに多いことかを表しているかもしれません。
少なくとも、今回の3社のワクチンの開発がこんなに早くできたのは、中国の専門家が、正確に分析結果を公表してくれたことが寄与しているとホランダー教授はおっしゃってました。
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『房広治の「Nothing to lose! 失う物は何も無い。」』(2020年11月20日号)より一部抜粋
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