札幌と大阪に医療崩壊の危機が迫り、コロナ感染拡大を放置してきた政府の姿勢に不満や批判が高まっています。年末年始に医療崩壊、緊急事態宣言を余儀なくされれば、菅政権の命運も絶たれる可能性が出てきます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年12月9日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
自衛隊に災害派遣を要請する緊急事態
北海道はコロナの感染拡大で医療がひっ迫、特にクラスターの発生もあって医療危機に陥る旭川市は、鈴木北海道知事と協議の上、自衛隊に災害派遣要請をし、自衛隊の看護師派遣要請に踏み切りました。
また6日の日曜日に、西村経済再生担当大臣はNHKの番組で、大阪府に対し、自衛隊の看護師派遣を視野に入れて準備したいと述べました。
すでに札幌市と大阪市は感染拡大を受けて、国に「GoTo」トラベルの対象から外すよう要請し、受け入れられましたが、札幌や大阪市以外でも感染は拡大し、今回は旭川市が2つの医療機関を含む8か所でクラスターが発生し、一般患者の診療もできなくなり、多くの死者を出す状況に追い込まれました。市や道のレベルではすでに対応不能という所まで来てしまいました。
大阪市や府は、大坂維新の会がこれまで医療の合理化、人員削減を進めてきた「ツケ」が回ってきた面があり、党の市政,府政の責任を問う声も聞かれますが、現実に医療がひっ迫し、病床の確保以上に看護師など人的制約に直面しています。
医療関係者にしてみれば報われない過労で、医療から離れたいという人も少なくなく、感染者数、患者数を減らさない限り、医療崩壊は間近に迫っています。
この緊急事態に、やむなく自衛隊の援助を仰ぐことになったのですが、自衛隊の医療チーム、看護師体制にも限界があり、全国各地に派遣する余力はありません。
例外的な「災害派遣」と認識する必要があります。
菅内閣支持率は急降下
こうした医療危機につながるような感染拡大を放置してきた政府の姿勢に、不満や批判が高まっています。
特に、医療専門家チームから再三、感染拡大につながる人の移動を抑えなくてはいけないと、暗に「GoTo」を止めるべきとの提案がなされているにもかかわらず、これを無視し、「GoTo」キャンペーンを続け、政府はむしろこれを延長する方向で予算手当てをしようとしています。
こうした政府の姿勢に対して、各種世論調査が批判の声を上げ、内閣支持率がここへきて急落しています。
共同通信の調査では支持率が前月から12.7ポイントも低下して50.3%に、JNNの調査では前月から11.5ポイント低下して55.3%となりました。政権に近い読売新聞の調査でも前月から8ポイント低下の61%となっています。
公明党の山口代表は7日、この内閣支持率低下の原因を、新型コロナの感染者増加に伴い、重症者の数が増え、医療体制のひっ迫などが影響しているのでは、との見方を披歴。支持率低下は謙虚に受け止めると述べています。
Next: 経済より「感染防止を優先すべき」の声が71%。強まる菅政権への批判
政府のコロナ軽視に強まる批判
各社の世論調査を見ても、菅政権の感染防止策については「評価しない」が「評価する」を上回るようになり、過半の人が緊急事態宣言を出して政府が先頭に立って感染防止に出るべき、としています。
また、経済と感染防止とどちらを優先すべきか、については71%が感染防止を優先すべきと答えています。
医療専門家チームは4日の会合で、20代から50代の人の社会的移動が感染を拡大させているとの見解を示しました。また7日には東大チームなどが、「GoTo」トラベル利用者が、これを利用しなかった人より2倍感染リスクが高い、との研究結果を報告しました。
しかし、西村大臣は8日、著者以外の専門家の査読を経ていない、としてこれを無視する姿勢を見せました。
旅行・観光関連の「利権」が絡んでいる?
また政府としては菅政権を押してくれた二階幹事長の旅行関連利権や、菅総理の観光利権がキャンペーンの中止を拒んでいる、との批判が出ています。
政府は「GoTo」トラベルの利用者が4,000万人に達したと言いますが、これは「延べ人数」で、一部の人が何度も利用している反面、7割以上の人が「GoTo」は利用しないと答えています。
重症化リスクが低いと言われ、感染を恐れない一部の人により大きな利益を与えるような、不公平な対策とも批判されます。10月の「家計調査」でも宿泊料支出が勤労者世帯で70.3%増となったのに対し、無職世帯では2.4%減となっています。
政府がトラベルにせよ、イーツにせよ、キャンペーンを続けても、感染者の増加、とりわけ重症者、死者の増加と医療ひっ迫が連日のように報じられれば、個人が自粛ムードになり、キャンペーンが効かなくなります。
その時は政府の感染防止に対する無策が批判の的になっているはずです。
Next: トランプ敗因はコロナ対応の失敗、菅政権も同じ道をたどる
トランプ大統領の二の舞にも
米国の大統領選挙では、トランプ大統領がまだ負けを認めていませんが、選挙結果ははっきりとトランプ氏の敗北となっています。
その原因はコロナ対応の失敗というのが共通認識となっています。実際、4年前にトランプ氏に投票した共和党支持者の中にも、家族や大事な人をコロナで失い、「トランプに騙された」として、今回はバイデン氏に投票した人が少なくないと言います。
実際、トランプ大統領は「コロナは民主党のでっち上げ」「ただの風邪」と言って、本人もマスクを着用せず、自ら感染しても「4日で復活した」ことを自慢し、コロナを恐れるなと言い張りました。
この結果、100万人当たりの感染者数は、民主党知事のカリフォルニア州で253人、ニューヨークで500人と、民主党知事州で少ない一方、共和党知事の中西部では1,500人から1,700人と明らかに多くなっています。
このトランプ氏と同じようにコロナの危険性を無視し、ただの風邪と扱ったブラジルや英国での感染者、死者が多く、日本もこれに近いコロナ軽視の政策がとられ、一部に医療ひっ迫が生じ、「助かる命も助からない」状況を作ってしまいました。
菅政権にもトランプ大統領と同様の批判が寄せられています。
迫る医療崩壊。菅政権も一緒に崩壊へ
一方、台湾では4月に感染者を出して以来、200日以上も感染者ゼロを記録しました。明治時代には日本でも後藤新平が海外で流行していたコレラを国内に持ち込まないよう、日清戦争での英雄をあえて島に隔離し、国内への感染を抑え込みました。
感染症の怖さを認識し、それに適切に対処したところが感染防止に成功しています。日本は米国同様、危機感がなく、対応が後手に回り、重症者を増やしてしまいました。
欧米ではクリスマス前に何とか感染を抑え込みたいと、11月にロックダウンなど規制をかけて政府が率先して感染防止策を打ち出し、フランスでは感染者の減少を見ました。
日本は相変わらずキャンペーンで経済を優先し、感染防止策をとらなかった結果、年末年始に医療崩壊、緊急事態宣言を余儀なくされるリスクが高まっています。
そうなれば、菅政権の命運も絶たれる可能性が出てきます。
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『マンさんの経済あらかると』(2020年12月9日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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