上記のような場合とは別に、温泉成分や液性(pH)によってぬるぬる感が楽しめるものがある。
まず、泉質的に言うと、ナトリウム炭酸水素塩泉は皮膚の不要な角質を溶かして流す効果があり、その角質が溶ける感覚がぬるぬる感につながる。
旧泉質名で言うと「重曹泉」で、重曹は掃除に使うくらいだから、美肌に効果があることはいうまでもない。
もう一つは液性がアルカリ性の湯の場合である。
鉱泉分析法指針では、液性の分類でpH7.5~8.5未満を弱アルカリ性、同じくpH8.5以上をアルカリ性としている。
pH10前後の強アルカリ性の湯も各地にあって、こうしたアルカリ性の湯はぬるぬる感を感じられる温泉が多い。
アルカリ性の湯も肌の脂や角質を乳化して流す作用があるので、美肌の湯といわれることが多い。 アルカリ性単純温泉などは代表的なものである。
ちなみに、炭酸水素塩泉も(弱)アルカリ性であることが多い。
ほかに、泉質名には現れないが、温泉成分として「メタけい酸」が多く入っていると、ぬるっとした肌触りになることが少なくない。これは成分分析書の数値を見ればわかる。
このぬるぬる温泉で、注意したいことがある。
上記のような要素をどれ一つクリアしていないにも関わらず、めったやたらにぬるぬるするお湯の場合、ちょっと疑ってほしい。そのお風呂が循環式の場合は、特に注意が必要だ。
というのも、循環式で湯を何度も使い回しをしていると、湯に有機物(簡単にいってしまえば汚れ)がどんどん蓄積されていき、それがもとでぬるぬるしている場合もなくはないからである。
また、源泉かけ流しでも、いわゆる「チョロ流し」で、浴槽内の湯があまり入れ替わらない状態になっていると、こうしたことが起こることもある。
もっとも、アルカリ性や炭酸水素イオン、メタけい酸などの多寡だけでぬるぬる感が決まるわけではなく、温泉水にはさまざまな物質がとけ込んでいるから、一概にこうだ、と断定はできない。
ただし、上記のようなこともある、ということは知っておくといいと思う。
温泉の個性に関しては、ひとまずは成分分析書を解読できるとおおよその目安にはなる。
もっとも、分析書はあくまで源泉のもので、浴槽の湯のものではないから、加温や加水、消毒、循環などで、個性がすっかり失われている場合もある。
ただ、分析書の読み方を知ると、その「失われているなあ」ということがわかるわけで、それだけでも入浴がもっと楽しくなる。分析書の読み方については、次号以降、少しずつ解説していこうと思う。お楽しみに。
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『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』より一部抜粋
著者/飯塚玲児
温泉業界にはびこる「源泉かけ流し偏重主義」に疑問を投げかけた『温泉失格』の著者が、旅業界の裏話や温泉にまつわる問題点、本当に信用していい名湯名宿ガイド、プロならではの旅行術などを大公開!
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