80歳の居住者に「建て替え」を提案…高齢マンションが抱える再生問題

 

でも、同じマンションで長い時間を共にし、一緒に役員をしたり、お祭りをしたりという仲間がいれば…次世代の人たちとも挨拶や立ち話を交わす場があれば…そして、その人たちが一生懸命取り組んでいる姿を見ていたら、自分はもうとても役員はできないけど、次の世代の人たちが30年後を思って、マンションを今立て直そうとしているのであれば、自分ができる最後のコミュニティへのご奉公として、再生の計画に賛成しよう…と思える気がします。

そういう人間の心理を嫌って、「コミュニティなんてなまじあると、自分がどうしたいかより、周りの空気を読んだ意思表示をする人が出て、そのお蔭で結局損をさせられている人が出る」と言った有識者がいました。この人の言う、損得というのは金銭的な見返りのことを言うのでしょうか(それだって、市場でそんなにいつも得な判断ができる人って少ないと思いますが…)。

でも、人間は、そんなに自分にとっての目先の損得だけ考えて日々の決断をしている訳ではありません。お世話になった人には、何かお返したい…いつも優しくしてくれる人からの頼まれごとなら、ちょっと無理しても聞いちゃう…頑張っている姿を日々見ていたら、何とか協力しようという気持ちになる…特に意識をしなくても、そういう周りとのかかわり合いの中で、私たちは小さな決断を積み重ねているのではないでしょうか。

私なんか、非合理の塊みたいな生き方と言われそうですが、ほとんどそうやって生きている気がします。そして、同じように、そういう周りに支えられて生きていると感じています。

自分が超高齢になって、あとどのくらい生きられるかな…という時になって、自分のいなくなった後にマンションに暮らすだろう人たちのことを思って負担を伴う「再生」に賛成するってすごいことだと思うんです。ここが自分の居場所だと思え、周囲への信頼や感謝がなければ、そういう気持ちにはならないと思います。だから、そういう気持ちになれるコミュニティを地道に育むことが必要で、それがマンションの将来のカギを握っているのです。

で、彼曰く、「すでに2つの老いがすすんでいるマンションは、できるだけ早く再生に向けての合意形成をしてほしい。そうしないと、仲間意識のベースがあった人たちが、高齢で意思表示が難しくなったり、亡くなったりして、どんどん決議に加われなくなってしまう。それによって反対者はごく少数なのに、賛成という明確な意思表示がない人が増えていくために3/4というのがとてつもなく高いハードルになるんだよね。住戸はこれだけ余っているんだから。全部が、市場価値がある活気のあるマンションとして生き残ることは難しい。合意形成できないマンションは市場からこぼれ落ちてもしょうがない」…と。

人にさりげなく心を配り合うコミュニティがなく、ガチガチの管理組合運営で、つねに理事会や総会が戦いの場になっているようなマンションは、重大な合意形成の場面で、厳しい現実を経験することになると思います。

それがよく分かっているからこそ、「コミュニティなんていらない派」の人の中から特別多数決議なんていらない、建替えも再生もすべて過半数で決められるようにすべきだ、なんて暴論が出てくるんですね。

究極の上から目線~。

image by: Shutterstock

 

まんしょんオタクのマンションこぼれ話
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