ケネディ暗殺とヘミングウェイ自殺には、「キューバ問題」が大いに関わっていた!?

 

実はキューバ危機を回避したケネディは、ヘミングウェイのキューバに対する格別な愛着を知っていました。彼の作品の多くがキューバに滞在中に執筆されています。ケネディはヘミングウェイの愛読者でもありました。文豪と大統領は文通を通じて、互いに理解し合っていました。このことはアメリカ人でもあまり知りません。ヘミングウェイといえば、探検家、アウトドアの作家、戦争好きなマッチョの代名詞のように米国では見られていましたが、実際は繊細な神経を持ち主でした。ヘミングウェイの実像を追うほどに、私は異なる文豪の顔を発見しました。

ヘミングウェイは精神的故郷ともいうべき愛するキューバが、祖国によって封鎖されソ連の衛星国として敵国になった事態を深く悲しみ、引き裂かれ、心を病んでゆきました。そしてある日、愛用の猟銃を口にくわえて自殺しました。

文豪の死にケネディは深い衝撃を受けました。

そして間もなく、ケネディは暗殺されました。その暗殺の約2週間前に、大統領はフランスのジャーナリストのインタビューに応じ、キューバ危機について語る中で、「米国のキューバ政策には根本的な間違いがあった」と言いました。この言葉はケネディの遺言のようになり、オバマ大統領は尊敬するケネディの遺志を引き継いでキューバとの国交回復に、遅まきながら取り組んだのだと思います。

ヘミングウェイは狩猟を好んでいました。しかし戦争を嫌い、核兵器はおろか猟銃以上の殺傷力のある武器は全て禁止せよ、と語っていました。太平洋戦争の戦場で、逃げ場を失った日本軍兵士を火炎放射機で焼き殺す米軍兵士を強く非難していました。

その一方、ナチスを激しく憎み、カリブ海で自前の戦闘用ボートを用意して、出没するドイツのUボート狩りをしていました。

ケネディ暗殺、文豪ヘミングウェイ自殺にはキューバ問題の関与があると見立てた私は、仕事の合間を縫って、『ヘミングウェイはなぜ死んだか』を書きました。約20年以上も前の話です。

最後に日本とキューバ危機の関わりについてです。キューバ危機のとき、日本の米軍基地から飛び立った戦略爆撃機には核爆弾が搭載され、パイロットはモスクワに照準を合わせて、核ボタンに手をかけ、大統領の命令を待っていた、という文書を発見しました。

ソ連側は悲し気なロシア民謡のメロディをラジオの妨害電波で流し続け、米軍パイロットの戦意を挫こうとしていた、大統領命令が下りることがなかったので、祈るように胸をなでおろした、とそのパイロットは記していました。

もし核のボタンが押されたら、われわれ日本人もソ連側の核兵器に見舞われることになり、今、こうして生きていなかったかもしれません。

この60年代の暗部の精算を図る、オバマ氏の歴史的仕事に期待しています。60年代の傑出した米国大統領、失意の中で自殺した文豪の遺志に報いることは、素晴らしい歴史の1ページを進めることになると思います。

『ニュースの点と線 柴山哲也の論説コラム』
著者/柴山哲也
国際関係を軸にした内外のニュースの背景と分析に重点をおいたコラムです。マスコミのニュースではわからない情報を多面的に吟味し、現代世界を読み解くキーワードを発見します。
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