阿部「本当に誕生会したの?」
唐突に私はそう尋ねた。一瞬、その場にいた男の子の表情が強ばった。
阿部「して無いんだな?」
そう言うと、その男の子は、すぐ横に置いてあったカバンを自分の身に引き寄せて、私を見上げた。
カバンを取り上げ、私はすぐにその中身を見た。すると、中にはタブレット(iPad)が入っていた。
その中身にあった動画には、テーブルを囲む彼らが、お誕生日席に座る少女に、罵詈雑言を浴びせるというものであった。
彼らは「ダメだし」と言っていたが、数日前から落ち着きを無くすほど楽しみにしていた少女にとって、これは、何よりも辛い暴力であると言えた。
彼らはお笑い芸人は、それを「おいしい」と思うと言う。お笑い等は、放送作家がいて、視聴率を取りたいディレクターが、より過激に演出し、番組に出演したい芸人が、その要請に応じる形で、だいたいはできている。
そもそも、少女はお笑い芸人では無い。
阿部「これが終わったら、飛び出したんだな?」
男の子「そうです。バーンってドアを閉めて。」
阿部「ん?ニキビ小僧、もう一度、教えてくれよ、ニキビ小僧。」
男の子はムッとした顔をした。
阿部「あれ?おいしいと思ったんだけどな。ここでボケなきゃ。」
彼らは全員、うつむいた。顔を上げる事ができず、まずいという表情になった。
阿部「これで、自殺でもしようものなら、君らいじめの実行犯だな。俺が2チャンネルにでも、全員さらしてやるよ。」
彼らは押し黙ったまま、半ベソのような表情になった。
阿部「心当たりを全部言え。」
彼らは、心当たりの場所を言い始めた。その場所に、すでに行って探している場合は、一緒にきた兄が「違う!」と言う。兄の形相は変わり、一人一人を目に焼き付けるように睨みつけていた。
これだけの時間だ。泣きながら走り出て、事故にも遭わず、公園なんかに行けば、目立つだろう。そうなれば、何かの屋内にいると考えるのが自然だ。
阿部「何かの建物。みんなで行ったような建物はないか?」
建物はあった。
花火大会があった日に、当時、小学生であった彼らは、近くの団地の屋上に上った。
その屋上はいつも施錠されているが、エレベーターホールにある小さなポストに合鍵がいつも置いてあり、それを知る、この団地に住む友人が、勝手に開けて屋上に上がっていたのだ。
場所は兄が知っていた。ちょうど、この会場になった友人宅の玄関から直線上であり、近かった。
私と兄は、家から飛び出し、走ってその団地へ行った。エレベーターで上がると、屋上のドアに鍵は閉まっていなかった。
身を低くしてドアを開け、私は兄に、右を探すように指を振った。兄は軽く頷き、戸を慎重に開いた。
そこから先は、探す必要はなかった。少し飾っているスマホを握りしめたまま少女は、座りながら泣いていた。
私は兄に少女を任せ、母親に電話した。
阿部「今、見つけましたので、連れて帰ります。」
自宅に着くと、母親はホッとした表情を浮かべていた。愛犬と共に探していた父親は、娘を抱きしめて泣いていた。そして、愛犬は全身で喜びを表現していた。
翌日には、加害者全員が親に連れられて謝りにきたそうだ。とんでもないことをしてしまったと親の対応を見て、子どもらも事態の重大さに気付き、泣いて謝ったそうで、一旦は終結したそうだが、少女の心の傷は深い。
そして、つい先日には、同じようなシチュエーションで、誕生日ケーキに顔面を押し付けられ、そのクリームまみれの顔を写真や動画に撮られ、同級生に動画などを回された少女が自殺未遂を起こした。
私に出来ることは、証拠を適切に収集し、書類をまとめ、被害を受けた子に寄り添うだけである。
同時にそのケアに心を割き、苦しみをもつ家族の話を聴くのみである。励ましなどは、余計な枷になることは、よくわかっている。
だからこそ、頑張れとは言わない。時には休めと言う、その間は、私に任せなさいと。
※当事者の許可を得てメルマガで紹介したものを引用しています。
著者:阿部 泰尚(T.I.U.総合探偵社代表)
ギリギリ探偵白書【無料】
T.I.U.総合探偵社の現役探偵が、実際に体験した事を語ります。アクションあり、感動あり、お笑いあり、役立つ情報あり!! ストーカーに遭わない方法や浮気の見抜き方など、探偵的リスクマネージメントについての紹介をしていきます。
最新号を無料メルマガでお届けします→<<登録はこちら>>