新卒学生の内々定を取り消した企業が、裁判で敗訴した理由

 

ポイントは、「内定に対する期待」です。

内々定を取り消したことに対してはこの裁判でも「問題なし」とされました。さきほどお話したように「内々定=採用」ではないからです。

ただ、内々定を出してからのそのあとに問題がありました。そのあとの流れは具体的には次のとおりでした。

5月、「内々定のご連絡」を学生に郵送その翌日に、学生は入社承諾書に記名、押印して返送

9月25日、会社が学生に電話をして「内定通知授与は10月2日に行う」と伝えた

9月26日以降、業績の悪化のため、採用の内々定の取り消しを社内で決定

9月29日、その日付けで、会社は学生に「採用内々定の取り消しのご連絡」と題する書面を送付

以上がその流れです。

さて、この流れをみてみなさんはどう感じましたか?

この学生の立場になれば「あまりにも急に」取り消しがされたと感じるのではないでしょうか(会社の立場になれば、もちろんいろいろな事情はあったと思いますが)。これを裁判所は「期待権の侵害」として認めました。それはつまり、この状況では学生が採用されることを期待するのは当然であり、その期待は「法律的に保護されるべきものである」としたということです。

さらに、この会社にはその後の対応にもまずい点がありました。それは、この学生がメールで詳細を問い合わせたにもかかわらず、具体的な説明を行わなかったことです。これも、裁判で「誠実な態度で対応したとは言い難い」とされました。

いかがでしょうか?

これを実務にあてはめると注意すべき点は2つあります。

まず1つ目は、形式上は内々定でも実質が内定に近い場合はそう認められることがあるということです。例えば、面接などで「ほぼ、内定のようなものだから」「ぜひ入社していただきたいと思っている」などは、応募者に対する気遣いやリップサービスだったとしても「内定」ととられる可能性があります。特に、それが経営者や人事責任者の言葉であれば、その傾向はさらに強くなります。もし、その後に不採用の可能性があるのであれば、必要以上に内定を期待させるような言い方は避けたほうが良いでしょう。

2つ目は、もし万が一、採用を取り消す場合は、「なるべき早く伝える」「誠意をもって、真摯に説明をする」ということです。

採用を取り消したい会社などあるわけがないと思いますが、万が一のためにはこれらの点は注意しておいたほうが良いでしょう。

image by: Shutterstock

 

「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理
【経営者、人事担当者、労務担当者は必見!】
企業での人事担当10年、現在は社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツをわかりやすくお伝えいたします。
<<登録はこちら>>

 
print
いま読まれてます

  • 新卒学生の内々定を取り消した企業が、裁判で敗訴した理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け