技術力や問題点の把握など、電気自動車に関してはアメリカよりも先行していたはずなのに、「市販」となると大きく遅れを取っている日本。天才プログラマーとして世界的に知られる中島聡さんはこの理由を、日米のベンチャー企業を取り巻く環境の差、さらにはベンチャーを興す人間の熱意の差とし、このままでは日本にスティーブ・ジョブズやイーロン・マスクのような人間は生まれない、と言います。
なぜ日本は電気自動車の「市販」でアメリカに大きく差を開けられた?
Question
米国ではテスラが電気自動車のメーカーとしてリードしていますが、日本では10年ほど前にエリーカという電気自動車がありました。高級車のデザインに似たテスラとは異なり、8輪でガルウイングというユニークな形状で未来の車としてワクワクしました。市販に向けてシムドライブという会社もできまし た。
しかし、残念ながらCEOがイーロン・マスクではなかったのでエリーカは市販には至らず、電気自動車の普及にはバッテリーがキモになるということでエリーパワーという電池会社ができました(これもどこかで聞いた話ですね)。その後、電気自動車が市販に結びついたという話はでてきていません。
目の付け所、技術力、問題点の把握などは米国よりも先行していたと思うのですが、どうして日米ではこんなにも違うのでしょうか?
中島聡さんの回答
いろいろな要因があると思いますが、一番の違いは「たった1人の情熱的な人が大きなことを成し遂げるための環境が整った米国」と「大きなものになればなるほど合議制でしか前に進めない日本」の違いがあると思います。
「原発」や「液晶」のように「この分野に投資することが誰の目から見ても正しい」という場合には官民をまたいだ合意形成を作ってそれなりの大規模な先行投資をしていくことが日本でも可能です。しかし、Elon Musk や Steve Jobs のように「私に任せてくれればなんとかします。細かなことを信じて下さい」というスタイルの人の元にはお金も人も集まりにくいのが日本です。
さらに付け加えれば、米国では資金を持たない創業者に大きなキャピタルゲインをもたらす仕組み(創業者に有利な会社法)があるため、それを利用して財をなし、それを元手にさらに大きなビジネスを作るということが頻繁に行われています。
日本の場合は、システム的にも社会常識的にも個人がビジネスを通して大きな私財をなすことを良しとしない傾向があるので、それも Elon Musk のような人物を産み出しにくい環境を作っています。
私はこれまで日本の大学発ベンチャーをいくつか見て来ましたが、いずれのケースでも発案者の人たちは今の職を維持したまま誰かに事業化してもらおうというスタンスでしかなく、「全てを投げ出してでもこれを事業化する」という強い意志を持った中心人物が不在でした。
エリーカのケースも同じだったかどうか具体的なことは知りませんでしたが、今の時代、その気になれば海外での資金集めも決して不可能ではないので、結局は熱意の問題だと私は思います。
image by: テスラモーターズ
『週刊 Life is beautiful』
著者:中島聡
マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。
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