それでも大麻は「違法」なのか? 末期がん患者が大麻治療で逮捕

 

最初の文言を読むと、医療用大麻を合法化している国は、最先端のがん治療が受けられない国みたいだ。この官僚はアメリカでは最先端のがん治療が受けられないと思っているのかしら。それに、そもそも、末期がんの被告人(山本正光さん)は最先端の治療に見放されて、大麻の使用に踏み切ったわけで、最先端のがん治療で治るものならば、大麻に頼る必要もなかったわけなのだ。山本さんに関して言えば、2014年10月に、長くて1年と言われた年月を超えて生きているわけだから、効果はあったと考えられる。

この官僚はさらに2つのウソをついている。医療用大麻を合法化したら、子供が大麻を入手し易くなるといっているが、日本では医療用モルヒネは合法であっても、子供が簡単に入手できるなんてことはない。医療用大麻も医療用モルヒネ並みの管理をすれば、流出することはない。アメリカで医療用大麻が嗜好用として流出しているのは、厳密な管理をするほど危険な薬物ではないからだ。 嗜好用大麻まで合法化されている州があるということは、要するに大麻は健康にそれほど重大な影響を与えないことが欧米の常識になっているからである。

日本では、あたかも大麻が麻薬であるかのような言い方が流行っているが、大麻はそもそも麻薬ではないのである。この官僚は「他のより強度な麻薬に手を出す入り口にもなっている」となんのデータも示さずに断言しているが、「酒やタバコは他のより強度な麻薬に手を出す入り口になっている」というのと選ぶところがないインチキ話だ。

さらに重大なウソは、医療用大麻の有効性は実証されていないという発言だ。有効性は広く実証されており、だからこそアメリカの多くの州で合法化されているのである。日本の厚生労働省が認可しているトクホよりはるかに有効性は高い。アメリカでは大麻がモルヒネでも効かない痛みを和らげ、がんの疼痛や縮小に有効だと言う研究成果が沢山ある。 日本でも国立がんセンターが2011年度に「がん性疼痛などの緩和のための新たな治療法の開発」と題する研究を行っており、大麻ががんの疼痛を和らげる効果があるとの結論を出している。ただ日本では、この手の研究に公的な資金がほとんど出ないので、そもそもどのくらい有効なのか調べられていないのが現状である。

がん性疼痛などの緩和のための病態生理に基づいた新たな治療法の開発

以前から主張しているように、大麻取締法は憲法違反の悪法なのだ。誰にも迷惑をかけるわけでもないのに、なぜ禁止なのか合理的な理由が全くない。だから、なぜ禁止なのかと聞かれた厚労省の官僚も支離滅裂な答弁しか出来ないわけだ。この官僚も心の中では大麻取締法は悪法だと思っているのかもしれないが、身の保全のために支離滅裂なことを言うしかないのであろう。 なんでもアメリカの真似をする日本が大麻解禁に対してだけは頑なにバカな法律(大麻取締法は敗戦後の日本を占領したGHQ=進駐軍に無理やり作らされた法律なのだ)を守っているのは、不思議だ。それで、憲法はアメリカに作らされたのだから変えようといっている精神はさらに不可解だ。

マスコミがこの裁判を余り大きく取り上げないのもちょっと不思議だ。医者に見離されて、がん難民になった時、大麻は最後の望みの綱かもしれない。日本人の半分ががんに侵されるというご時勢、これは一人山本正光さんだけの問題ではなく、明日は我が身かもしれないのだ。法律は国民の命を守るためにある。 法律を守るためには国民の命などどうでもいい、という判決が出ないように望みたいが、裁判官も身の保全のために体制に逆らう判決を出すのは勇気が要る。多くの人がこの問題で声をあげて、正しい判決が出るように期待したい。

image by: Shutterstock.com

 

池田清彦のやせ我慢日記』より一部抜粋

著者/池田清彦(早稲田大学教授・生物学者)
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