毎年20億円の赤字!「迷走」新国立競技場問題を新聞各紙はどう伝えたか?

 

■収支の「悪化」では済まされないのでは?■

【朝日】は1面の記事では冷静な筆致で通している。しかし、見出し2行目が「増加765億円分 アーチ構造など原因」となっていて、この見出し2行目に対応するように、記事本文では「アーチ2本で建物を支える特殊なデザインを採用したのは、この日の有識者会議を欠席した建築家の安藤忠雄氏を委員長とする審査委員会だった」と書き、皮肉を込めた批判を滲ませるスタイルを取っている。アーチ構造に問題の核心を見る見方は間違ってはいないだろう。

ところが、この問題の焦点の1つとして急浮上した「大規模改修費」(=維持費)については、記事本文の末尾に「…約1,046億円と見積もった」と書いていて、これは有識者会議に配られたJSC提出資料の末尾、欄外に1行書き加えてあったのと同じ扱い。記者は、このことが示す意味について気が付いていないのかもしれない。まさしく、大見出しが相応しい衝撃的な事実なのに。

関連記事は2面の「時時刻刻」と14面の社説。「時時刻刻」は「新国立あっさり増額」という見出しだが、内容はいくつかの内幕を明らかにしていて、それなりに興味深い。1つは有識者会議の模様。費用に若干でも疑問を呈したのは笠浩史氏のみで、逆に可動席を仮設から常設に戻せという主張(サッカー協会小倉純二名誉会長)や「屋根を付けろ」(音楽著作権協会の都倉俊一会長)というようなリクエストが相次いだこと。舛添都知事の豹変の理由は、与党である都議会自民党による批判だったこと。そして、肝心のアーチについては、JSCのアドバイザーである和田章氏(構造設計の専門家)が「鉄骨だけで200億円」との見通しを示しているうえ、別の建築家からは、「都営大江戸線が走っているので難しいのではないか」との声も出ているという。記事の最後は2,520億円がどういうカネか、他との比較を試みているのは、まあ、詰まらないとまでは言わないが、「お遊び」に見える。ギリシャの対IMF延滞額の方が安かったと言って何になるか。

社説は「これでは祝福できない」とのタイトル。「完成後の採算も怪しい」と書いているのは、収入から支出を差し引いた額が3億3,000万円から3,800万円に大幅縮小されたことを指しているのだろう。併せて、50年間に必要な大規模改修費が1,046億円に膨らんだことにも言及してはいる。しかし、それが「完成後の毎年の収支を、さらに悪化させる要因になる」という評価の仕方は余りにも緩い。粗利3,800万円の企業が、毎年どうやって20億円返せるだろうか。「収支の悪化」という概念では包摂しきれないと私は思う。まあ、だから、《朝日》は見出しにこの問題を反映させられなかったということなのだろう。

■「巨大な沈黙の土木構造物」■

【読売】は、1面記事のリード末尾で「巨額の総工費には批判もあり、財源確保が最大の課題となる」としている。その程度の認識ということだろう。批判があるのは誰だって知っているし、課題を事実上「財源確保」に絞るのは、計画そのものが抱えている問題を不問に付すやりかた。ちょっと気が引けたのか、最後に「『負の遺産』にならないか」と題する記者のコメントが付いていて、そこでは、建設費の高騰、アーチ構造の温存、財源不足、五輪後の工事などなど、「国民に本当に親しまれる施設になるために、課題は山積みだ」と、財源以外の問題も蒸し返している。当然だが。

13面の「論点スペシャル」では、この計画に批判的で独自の代替案を示している建築家の槇文彦氏、JSC理事長河野一郎氏、ザハ・ハディド事務所事務局長のジム・ヘベリン氏の3氏がインタビューを受けている。いくつか驚くような話、大事な論点が出ている。

槇氏の話からは、この建設計画について、JSCの構造解析が完全に終了していないとのことを知った。驚いた。技術的な検証が終わっていないのに建設することなどできるわけがない。それから、「この競技場は、スポーツ競技用の健全な芝生の育成のため、年間12日間しかコンサートなどのイベント使用が許されない」ということ。これは以前から指摘されていたが、槇氏は「既に財政的に破綻している」として、「この施設は、年間50日程度しか使用されない巨大な沈黙の土木構造物」と喝破している。改めて驚愕の事実と言うべきだろう。

JSC河野一郎氏は、これも既知だが、自分たちは文科省からザハ・ハディドの案で進めるよう指示されていて、白紙撤回など、計画を覆す権限がないとのこと。さらにヘベリン氏の発言には驚いた。アーチ構造はかえって工期の短縮になり、コストが下がるというのだ。その心は、自分たちが建設業者を集めればそうできるということのようで、これは槇氏も言うように、「デザイン監修者」に過ぎないザハ事務所サイドの恨み節なのかもしれない。日本企業を施工業者に指定したから高くなるのだと、明け透けに不満をぶちまけている。

社会面の記事を含めて、維持費の問題に言及がない。《読売》には、《朝日》程度の認識もないということだ。

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image by: 日本スポーツ振興センター

『uttiiの電子版ウォッチ』2015/7/8号より一部抜粋

一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
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