薩長への恨み、未だ消えず? 安倍政権が東北で「不人気」の謎

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自民公明の与党圧勝で終わった参院選ですが、実は東北では野党統一候補のほとんどが勝利していたことをご存知でしょうか。なぜ、安倍政権は東北で大敗したのか? 評論家の佐高信さんの発行するメルマガ『佐高信の筆刀両断』では、幕末期の「奥羽越列藩同盟が生きているからだ」と面白い考察で先の参院選を解説。薩長出身にルーツを持つ安倍政権への恨みは未だ根深く残っていると持論を展開しています。

怨みは消えない

ほぼ毎月一回行っている「金曜日文庫」の対談の後の質問で、ハッとするようなことを言われた。

「先の参院選で、東北で野党統一候補が勝ったのは、TPP問題だけでなく、“奧羽越列藩同盟”が生きているからではないか」

確かに、TPPポイントだとすると、秋田で敗北したのが説明できなくなる。

質問した人は福島の出身だったが、三重で統一候補が勝ったのも、民進党代表の岡田克也の地元というだけでなく、
徳川親藩の桑名藩ということではないかと主張するのではないかと主張するのである。

私は「ウーム」と唸ってしまった。

現首相の安倍晋三は長州の出身であり、元首相の小泉純一郎の父親は薩摩の出だから、いまだに薩長が日本の政治を
悪くしてるんだと、堂々強調している私が気がつかないのは不覚の限りだった。

沖縄の勝利も、薩摩による虐待と差別に対する抗議と読んだほうがいいだろう。

怨みを深く沈黙させているところは、そう簡単にだまされない。新潟も、もちろん、いわゆる薩長の官軍と対決した
奧羽越列藩同盟の一員だった。

私が『西郷隆盛伝説』(光文社知恵の森文庫)に書いたように、東北では戊辰戦争の際の秋田の裏切りを許していない。

それについて、秋田県出身老医師の述懐を引こう(吉田昭治『秋田の維新史』より)

「あれは明治三十四、五年の頃、仙台の第二高等学校に居た頃のことです。舎監をしていたのが旧仙台藩士でしてね。
なかなか厳格な反面、優しいところのある爺さんで、生徒達にも人気がありました。私なども入った当座は随分可愛がられ、世話になったもんです。ところが、私が秋田出身の出と判ると、その途端態度がガラリと変わってしまいました。
それからというものは、寮であろうが、学校の中であろうが、町の中であろうが、顔を合わせる度毎に、一日一回なら
一回、三回なら三回、十回なら十回、とにかく会う度毎に凄い目でにらみつけて、破れ鐘のような声で”秋田の変心!”と
頭ごなしに怒鳴りつけるんです。私は山奥の百姓のせがれで、仙台藩士の暗殺とは全く何の関係もないのに。いやあ、あれには参ったもんでした」

「暗殺」とは、揺れる秋田藩に送った仙台藩の使節、志茂又左衛門らを、薩摩出身の奥羽鎮撫総監督府参謀、大山格之助が斬殺してしまったことを指す。

仙台藩が大山と同職の世良修蔵を暗殺して列藩同盟のリーダーとなったのと逆に、秋田藩は志茂らを斬殺して、薩長の官軍側に組み入れられた。

TPPを推進しないと言って簡単にそれを引っくり返した安倍などを、奥羽越列藩同盟に属して抵抗した人たちは絶対に信じないということだろう。およそ150年経っても怨みは消えないのである。

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『佐高信の筆刀両断』第109号より一部抜粋

 

『佐高信の筆刀両断』

著者/佐高信(評論家)
高校教師、経済雑誌の編集者を経て評論家となる。著書に『保守の知恵』(毎日新聞社)、『未完の敗者 田中角栄』(光文社)など。相手が誰であれ舌鋒鋭く迫る様はメルマガ誌上でも遺憾なく発揮。“政治”に殺されたくない人は読むべし!
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