稲田防衛相に注目する海外は「未来の首相候補」をどう見ているのか?

2016.08.05
by gyouza(まぐまぐ編集部)
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8月3日に発足した第3次安倍第2次改造内閣の新閣僚の中で、海外が最も注目しているのが、稲田朋美新防衛相だ。右寄りとされる安倍首相と信条を共有し、憲法改正に前向きで、愛国主義的主張をすることで知られている。すでに批判や反発の動きも出ており、近隣諸国とうまくやっていけるのかと懸念されている。

女性で2人目の防衛相。でも海外は警戒

稲田朋美氏は、弁護士出身の衆議院議員で、2005年に初当選し、現在4期目を務めている。内閣府特命担当大臣(規制改革)、自民党政務調査会長を経て、今回の改造内閣で、小池百合子現東京都知事に次いで2人目の女性防衛相として入閣した。

欧米メディアは稲田氏を、「タカ派的」(ロイター)、「保守強硬派」(フィナンシャル・タイムズ紙、以下FT)、「ナショナリスト」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙、以下WSJ)と紹介。アジアに至っては、「極右」(朝鮮日報)、「超右翼のタカ派」(新華社)など、さらに強い表現が使われている。

歴史認識、改憲で一致。首相期待の星

稲田氏がこのように形容される理由のひとつに、同氏が第2次世界大戦における日本の行いについての世界の認識に、異論を唱えていることがある。朝鮮日報は、同氏が過去に「南京大虐殺は虚構だ」、「慰安婦は当時としては合法だった」と発言したと報じており、AFPは、南京大虐殺や東京裁判などの物議を醸す題材を取り上げているとされる、自民党の「歴史検証」勉強会で、稲田氏が中心的役割を担っていると述べ、強固な愛国主義的考えの持ち主だと見ている。

さらに、稲田氏が靖国神社の「レギュラー参拝者」であること、平和憲法の改訂を支持していることにも各紙が言及し、その信条が、安倍首相のものと重なると指摘する。WSJによれば、日本の戦争犯罪についてのスピーチをした稲田氏に、政治家としての可能性を見つけ、選挙に出ることは勧めたのは安倍首相だという。イデオロギー的に共通する部分が多いのは明らかで、安倍政権で稲田氏はこれまでも要職についており、FTは同氏が安倍首相子飼いの政治家だと述べ、未来の首相候補だと紹介している。

日中関係悪化の懸念も。鍵は靖国参拝

右寄りの姿勢を抑え、靖国参拝をやめ、慰安婦問題で合意した安倍首相が、タカ派の稲田氏を防衛相に選んだことに不満を隠せないのは中国だ。WSJによれば、日本が防衛白書で中国が東アジアの緊張を高めていると非難したことに対し、中国は日本こそ自国の軍事力の規制を緩めるための口実にしていると反論し、7月末から新たな論争になっている。この流れを受けてか新華社は、修正主義者である稲田氏を任命したことで、安倍首相の改憲を成し遂げ軍国化を進める意図が強調されたとさっそく批判している。さらに稲田氏は首相に近いが、これまでの経験とは全く関係のない防衛省のトップとなるには未熟すぎると主張。同氏が右翼の「日本会議」の表立ったメンバーであることも、その偏向した政治的、国家主義的考え方の証拠だとし、全く適任ではないという考えを示した。

 テンプル大学日本キャンパスのアジア研究者、ジェフリー・キングストン氏は、日中関係は今、協力を進めようというムードにあるが、もし稲田氏が近々靖国参拝を行うようなことでもあれば、大きなダメージになるだろうと懸念を示している(ロイター)。稲田氏自身は、今年の参拝の有無を問われ、参拝は「心の問題」とし、回答していない。

政治家としては有能?足りないのは国際経験

さて、稲田氏の公式な任命の数時間前に、北朝鮮の発射したミサイルが男鹿半島沖250キロの日本の排他的経済水域に落下するという事件が起きている。WSJはこれを同氏への「歓迎の贈り物」と表現しているが、新防衛相への挑発の意図があったかどうかは定かではない。強硬派のイメージがあるだけに、海外からの風当たりは今後も強そうだ。

もっともFTは、稲田氏は議論、講演などのうまさで知られていると述べ、政治家としての資質はあると見ているようだ。慶応大学で政治学を教える曽根泰教教授は、本気でリーダーになろうとしているなら、稲田氏に必要なのは国際経験だと指摘。「防衛相の仕事が、他国とともに取り組むことを学び、他国の見地を知るための機会になるだろう」(WSJ)と述べている。

(山川真智子)

 

記事提供:ニュースフィア

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