中国と「一触即発」のウソ。実は関係改善で、日中首脳会談の可能性も

 

そうは言っても中国も日本もいろいろ

そうは言っても、中国も一色ではない。「共産党独裁」なのだから習近平の命令一下、一糸乱れず対日攻撃を仕掛けているに違いないといった、3分の1世紀以上も前の中国観に今も囚われている論者が少なくないけれども、それでは先行きを見失う。

例えば、6月13日の米外交専門誌「フォリン・ポリシー」に載ったフェン・ジャン署名の論文「南シナ海をめぐる中国内部の抗争」は、習近平でさえ南シナ海で一体何を求めているのか整理できていない状況で、中国の指導層内部では「現実派」「強硬派」「穏健派の抗争が激化していると指摘している。

この人がどういう人か、ウェブで見る限り肩書きも経歴も示されておらず、恐らく在米の中国人学者ではないかと思われるが、論旨の中で一番大事なのは末尾で彼が言っていることで、「中国の外交は現在『大人になりかけadolescence)』である。台頭する中国は地域的にもグローバルにも大きな責任があるのだから、早く大人になることを学ぶ必要がある」という直言である。

そこで大事なのは「国際社会が、中国内の穏健派が政策決定において多数派になるよう仕向ける」ことであって、米高官が「中国が東アジアの覇権を狙っている」などというレトリックを持ち出すことは、中国内の強硬派の「米国は中国を封じ込めようとしているという主張を勢いづけるだけだ、と断じている。その通りである。

米国にも、旧態依然の冷戦的反共主義の名残である反中国派がおり(マケインなど)、それと一部は重なるけれども、「中国脅威論」を煽って日本や韓国や台湾などに最新鋭の武器を買わせようとする軍産複合体の先兵のような連中(アーミテージなど)もいるし、もっと現実的に中国を巧く21世紀の世界秩序に組み込もうと考える人たち(キッシンジャーなど)もいる。

同様に日本でも、安倍の側近ブレーンは日本会議系の右翼=反中国派であるから、安倍を「中国包囲網」外交に縛り付けようとするが、谷内らは現実派で中国と喧嘩腰になるのには反対だし、二階幹事長や公明党は日中友好派である。経済界はもちろん、世界最大の市場である中国を敵視することには反対である。

こうした中で、最悪コースは、米日の反共派、冷戦派が連動して尖閣などのトラブルを過剰に煽り立て、結果的に中国内の強硬派を支援することであり、最善コースはその逆で、米日の対中和解派が手を組んで中国の穏健派を盛り立てることである。そこに「大人になりかけ」の中国外交を国際社会が巧く誘導する要諦がある。

揺れ動く中国が、時として「強硬派」の主張に傾くと、「ほら、本音が見えた」と捉えて過剰に反応するといった産経新聞的な思考では、事態を悪化させるだけである。「海空連絡メカニズムで早期に合意することが、中国内で「穏健派」の立場を強めさせる重要な一歩となる。

image by: 首相官邸

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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