中国と「一触即発」のウソ。実は関係改善で、日中首脳会談の可能性も

 

米中が98年に結んだ協定がモデル

このモデルは、94年の米中艦船の一触即発的な危機や95~96年の台湾海峡危機をきっかけに、米国が中国に働きかけて98年に締結に至った米中間の軍事海洋協議協定」で、まずは将官クラスの軍人代表と防衛・外交高官、専門スタッフなどによる年次会合、分野別の専門家会合、特定の懸念事項に関する特別会合の3層からなる協議メカニズムを設営しそれを通じて具体的な措置を積み上げて行くことを目指していた。

この米中協定は、あまり有効に機能していないと評価されているらしいが(注2)、その後オバマ政権は信頼醸成措置の交渉を積み重ね、15年9月の習近平訪米では新たな協定に調印したと報道された。その直後の昨年10月27日の南シナ海における米艦「自由航行作戦米中双方が抑制的に行動して事なきを得たのは恐らくそのためで、3日後には米中の海軍トップ同士のホットラインであるテレビ会談が実施され、さらに11月には、何事もなかったかのように、米艦の上海友好訪問と中国艦のフロリダ友好訪問が予定どおり行われ、どちらも合同の通信訓練を行っている。通信訓練というのは、現場で遭遇した艦艇や航空機同士が直接通信し合って危機回避するために、周波数合わせなどを予め練習しておくためのものである。今年6月に始まった米海軍の2年に1度の「リムパック大演習」にも、中国は前回に続き招かれている。そうしたことを見ると、米中のメカニズムはある程度、深化しているのではないかと思われる(注3)。

★(注2)国会図書館調査局「レファレンス」No.770(15年3月号)「海上事故防止協定による信頼醸成/過去の事例と日中海空連絡メカニズムの課題」(浅井一男)。
★(注3)INSIDER No.180、前掲『沖縄自立と東アジア共同体』、共著
習近平体制の真相に迫る』(花伝社、16年刊)第3章「南シナ海をめぐる米中確執の深層」などを参照。

話を戻すと、せっかく日中間のメカニズム構築で合意していたにもかかわらず、その年9月の野田政権による尖閣国有化の愚行で一気に関係が険悪化してこの問題が吹き飛んでしまい、さらに13年1月には東シナ海で中国艦が海自の護衛艦に射撃管制レーダーを照射するという無法行為に出たこともあって、すっかり店ざらしになってしまった。

それでもこの合意は実は死んでおらず、上述の14年11月の安倍・習の初会談に向かう流れの中で、9月に事務レベルで協議を再開することが合意され、従って「4項目合意」にもそれが盛り込まれ、実際に首脳会談でも確認され、そして15年1月から実際に協議が再開されたのである。

この経緯について、終始冷静に、かつ「日中関係が良好な方向に漸進している」ので「早期に具体的な合意を達成し、実効性あるメカニズムが動き出すことを期待したい」という真剣な思いを抱いてきたのは、自衛隊制服組である。なぜなら、海上自衛隊幹部学校の山本勝也が書いているように、「一般に危機管理メカニズムは、たとえ如何なる主張が対立して両者の関係が悪化し緊張した場合においても、少なくとも最悪の事態は避けなければならないという最後の一点を双方が共有していることが前提であり、一種の最後の防波堤である。したがって、政治・外交関係が良好でないほど両者はこの最後の一点を確実なものとするためのチャンネルの構築と実効性の確保を追求すること」が大事だからである。無駄な戦争をやりたくないのは誰よりもまず軍人である。

山本勝也コラム

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