真田丸『第41話』裏解説。家康はなぜ豊臣家との決戦を急いだのか?

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NHK大河ドラマ『真田丸』を放送直後にワンポイント解説する人気連載シリーズ。今回は、大坂の陣の直接の原因ともなった「方広寺鐘銘事件」について多くの家臣を抱え、修羅場をくぐり抜けてきた家康が、方広寺の鐘銘ごときに言いがかりをつけて開戦にまで持ち込もうとしたのはあまりに不自然です。しかし、そこには年老いた家康の、切ない「親心」が隠されていました。

今回のワンポイント解説(10月16日)

方広寺の鐘銘に言いがかりをつけて、豊臣家との開戦に持ちこもうとする家康のやり方は、かなり強引な印象がある。慶長19年(1614)の時点で家康は72才だから、自分の持ち時間が残り少ないのを感じてのことだろう。

自分が生きているうちに、豊臣家を潰してしまおう…家康がそう考えた背景には、実は関ヶ原での苦い勝利があった。関ヶ原合戦の結果、豊臣系の大名が大きな領地を持つことになり、徳川家 の一族と家臣で全国を支配することができなくなった。なぜ、そうなったかといえば、秀忠が決戦に参加できなかったからだ。

思い出してみよう。かつて北条氏政が氏直に、織田信長が信忠に、豊臣秀吉が秀次に、権力を継承したケースを。彼らは、後継者に本家の家督を譲って、自身はグループ全体の総帥におさまり、軍事・政治の実績を積ませていった。家康も、基本的には同じ方式で秀忠に権力を継承しようとしていたことがわかるだろう。

しかし、関ヶ原に参戦できなかった秀忠は、軍事的な実績をつむ機会を失ってしまった。そして、 慶長19年の時点においても、秀忠の軍事指揮官としての能力は未知数のままだったのだ。全国の大名たちが頭を下げているのは、「征夷大将軍」という秀忠の肩書に対してではない。決戦に勝った家康が、いちばん強い者として君臨しているからなのだ。

もし、このまま家康が他界して、そののちに徳川家と豊臣家の間で戦争が起きたとしたら。全国の大名たちは、はたして秀忠の指揮にしたがうだろうか。わけても、いまだ秀頼に臣下の礼を取っている豊臣系の大名たちは、どう動くだろうか。

はたして秀忠は、機先を制して徳川優位の状況をつくりだせるだろうか。あるいは、両軍が対峙している時に、豊臣方が巧妙な動きを見せたり、徳川方にミスが出たりして、徳川方がピンチに陥った時。秀忠は、はたして的確に対処できるのだろうか。

実績のない秀忠の指揮に従っていたのでは、勝てないかもしれない…大名たちがそんな不安にひとたび取りつかれたら。関ヶ原合戦だって、勝敗を決定的に分けたのは、寝返りなのだ。 そう考えた時、家康は自分の体が動くうちに豊臣家を滅ぼして、秀忠に勝利をプレゼントするしかない、と思い至ったのであろう。(西股総生)

今週のワンポイントイラスト
大坂城。足軽として有象無象もいっぱい集まったはずだけど…!?(みかめ)

 

文・絵/TEAM ナワバリング(西股総生・みかめゆきよみ)

ナワバリスト(城郭研究家)の西股総生率いる、お城(主に山の城)と縄張りを愛する3人組

 

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