騙されるな。「叱らない子育て」でも打たれ弱い子にはならない

 

叱られて育つと自己否定感と他者不信感にとらわれる

ところで、先ほど「実際に調べた人はいません」と書きましたが、本当は実際に調べた人たちがいます。それはビジネスマンではなく、教育心理学の専門家たちです。子どもの頃にどういう育てられ方をするとどういう大人になるのか? 親の言葉遣いが子どもの成長にどういう影響を与えるのか? そういったことを調べるのが教育心理学のメインテーマの一つなのです。

専門の研究者が膨大な数の親子と面談したり、実際の親子のやり取りを動画にとって分析したり、練りに練られた質問項目でアンケート調査をおこなったりなど、非常に科学的な研究がおこなわれています。

大規模な研究になると、何千人にも及ぶ対象者たちを数十年にわたって追跡調査することもあります。そういった研究の中でわかってきたことは、先ほどの上司たちが言っている紋切り型の認識とはまったく正反対のことばかりなのです。

子どもの頃から叱られることが多かった人、つまり叱られ慣れている人は、自分はダメな人間だと感じて自己肯定感が持てなくなります。すると何事においても「自分はできる」と思えなくなります。そして、「どうせ自分はダメだ」という自己否定感にとらわれ、がんばりがきかなくなります。

同時に、叱ってばかりいる親に対しては「自分のことが嫌いなのだ」と感じ、愛情不足感を持つようになります。このような親に対する不信感を持ってしまうと、その後の人間関係も同じように不信を土台にして作るようになります。つまり、他人が信じられないという他者不信感です。

自己肯定感と他者信頼感がある人は失敗を乗り越えられる

ですから、「よく叱られて育った人は打たれ強い」というのは、完全な勘違いなのです。そういう人は職場で失敗して上司に叱られると、「どうせ自分はダメだ。自分にできるはずがない。やめるしかない」となりがちです。

しかも、他者不信感もあるので、叱ってくる上司に対して「あの上司は前から私のことを嫌っていた。私なんかいないほうがいいと思っているんだ。やめさせてもらいます」となりやすいのです。

反対に、子どもの頃から叱られることが少なく十分ほめてもらえた人は、自己肯定感が育ち、「自分はできるがんばれると思えるようになりまです。

同時に、親の愛情を実感できているので、親を信頼する気持ちも育っています。このような親に対する信頼感がある人は、その後の人間関係も同じように信頼を土台にして作るようになります。つまり、他人を信じることができる他者信頼感です。

こういう人は職場で失敗して上司に叱られても、「だいじょうぶだ。自分はできる。がんばれる」となって、実際にがんばり続けることができます。同時に、他者信頼感もあるので「あの上司は自分のために叱ってくれているんだ。よしがんばるぞ」とよい方に解釈してがんばり続けられるのです。

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