そもそもの基本設計のミスが禍した
米国の立場から見て、このTPP失敗の根本的な原因は、交渉に参加したほとんどの国にとって最大の貿易相手である中国を予め排除して、21世紀的な新しい通商ルールを作ろうとしたことにある。次表は、加盟予定の12カ国の貿易相手別の輸出入統計から、中国及び香港との貿易の金額ベースのシェアを抜き出したものである(JETROによる、ブルネイは特殊な国柄で統計がないので除外)。
■TPP加盟予定諸国の対中貿易の重み
国名 輸出に占める対中国の 輸入に占める対中国の
順位 比率 順位 比率
米国 3 10.1 1 20.1
カナダ 2 4.7 2 11.6
メキシコ 3 1.8 2 16.7
チリ 1 24.6 1 20.9
ペルー 1 18.3 1 21.1
シンガポール 1 23.6 1 3.0
ベトナム 2 13.4 1 29.6
マレーシア 1 12.1 1 16.9
ニュージーランド 1 21.4 1 17.1
オーストラリア 1 34.7 1 21.1
日本 1 23.1 1 24.8
NAFTA3カ国のうちカナダとメキシコは米国が圧倒的に大きな貿易相手国(輸出の7~8割、輸入の5割前後)であるから、対中国のシェアでは数字が小さくなるが、それでも順位では2~3位の相手国である。米国でさえも、対中輸入はほぼ他国と同レベルであるのは当然として、輸出の1割を中国に差し向けている。それ以外の中南米やアジアの国々では、ベトナムの輸出を唯一の例外(対米が1位=19.1%)として、すべて中国が最大の輸出入の相手である。
人口で言えば、米国を含むこの11カ国の合計は8億人余りで、中国一国の6割程度にすぎない。名目GDPで言えば、中国は11兆ドルで米国の18兆ドルに次ぐ世界第2位であるのに対し、米国を除く他の10カ国の合計は9.5兆ドルで、束になってかかっても中国に及ばない。
これを見て普通の頭で考えれば、TPPは「環太平洋戦略的経済連携協定」の略称なのだけれども、まず中国が入っていないのではお話にならないし、それ以外にも韓国も台湾も、またASEANの他の6カ国も入っていない。さらにこれからのことを展望すれば、モンゴルはもちろん、ロシア極東部も視野に入らなければおかしいだろう。これを「環太平洋」と名乗るほど現実離れした話はない。