ほら、見たことかTPP。米国離脱宣言で万策尽きたアベノミクスの末路

 

しかし、繰り返すが、TPPが中国抜きだったのはオバマのブレによる錯誤であって、その本質ではない。その証拠に、この安倍訪米の直前、米民主党系外交政策マフィアの頂点に立つズビグニュー・ブレジンスキーは、日米首脳会談の基調の混乱を予想したかのように、ニューヨーク・タイムズに「(米中は)大国同士だが覇権国同士ではない[Giants,but Not Hegemons]」と題した重要な論説を寄せ、次のように述べていた。

今日、多くの人々は、出現しつつある米中2極が紛争に突き進んでいくのは不可避だと恐れている。しかし私は、この「ポスト覇権時代」にあっては、世界支配のための戦争が本当に起きるとは思っていない。

近年、米中の友好的な関係が、とりわけ両国のマスメディアによる敵対的な論争によって試練に晒されてていることは無視できないし、そのような風潮はまたアメリカの不可避的な衰退と中国の急激な台頭についての憶測によって煽られてきた。

しかし、安定した米中関係にとっての現実的な脅威は、両国の敵対的な意図から生じるのではない。むしろ、北朝鮮と韓国、中国と日本、中国とインド、インドとパキスタンなど、アジア諸国の政府がナショナリスティックな激情を煽動したり許容したりすることによって[地域紛争が]コントロール不能に陥ることこそ危険なのである。

それに効果的に対処するには、米国の建設的かつ戦略的に微妙なアジアとの関わりが必要で、そのためには既存の日本及び韓国との同盟にのみ頼るのではなく、米中の協力体制を構築する必要がある。

それゆえにまた米中は、経済的な競争関係を政治的対立に転化させないようにすべきである。例えば、米国は中国抜きのTPPを追求すべきではないし、中国は米国抜きの地域経済協定を追求すべきでない。

もし米国が、警察官を演じるためではなく、地域の安定装置としてアジアに存在を保ち、また中国が、暴君的ではなく、卓越した地域パワーとなるのであれば、20世紀のような不幸な紛争を繰り返すことを回避できるだろう……。

ここで民主党系の外交政策の大御所は、米中間の覇権競争も戦争もないと断言している。なぜか? 米国覇権の終わりと共に、覇権時代そのものが終わるからである。米中が「戦略的パートナーシップ」を編み上げていく上で、障害となるのはむしろアジアのナショナリスティックな激情や扇動による紛争(たとえば安倍の尖閣危機呼号!)であって、そのためには米韓・米日の同盟にのみ頼らずに米中の直接的な関係を重視すべきだ。そう考えると、中国抜きのTPPを追求するのは間違いであると……。

全くの推測に過ぎないが、オバマはこのような民主党系大御所の意見を聞きながら2月に安倍をワシントンに迎え、態度が冷たかった。そして、その4カ月後には習近平訪米をカリフォルニアで異例なほど温かく迎えた。そのように、オバマが対中国姿勢を修正して「戦略的パートナーシップ」関係の再構築に立ち戻ろうとしていた時に、安倍はTPPの対中包囲網という一面にすがりつこうとしたのである。このすれ違いぶりが酷い。

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