ほら、見たことかTPP。米国離脱宣言で万策尽きたアベノミクスの末路

 

「中国包囲網」に飛びついた安倍

そういうわけなので、日本は熟慮を重ねてこれにどう対応するかを決めるべきだったが、そうはならなかった。TPPへの扉に手をかけたのは野田佳彦首相で、彼の主観的意図は、オバマのお覚えをめでたくしたいということであったろう。彼は、鳩山政権の辺野古問題での迷走で日米関係が深く傷つけられたと思っていて、何によらずベタベタの親米ぶりを演じようとした。

後に13年2月に出した地元支持層向け通信「かわら版」では、TPPを振り返って、「私は、かねてより日米同盟が日本外交の基軸であるという信念を有していました」から始まって、12年11月のASEAN首脳会議でオバマと会ってTPP交渉に早期に参加したい旨を伝えた際に、「私はTPPをビートルズにたとえました。『米国がジョン・レノンだとしたら日本はポール・マッカートニーです。……ジョンとポールが仲良くやらなければビートルズがうまくいかないように、日本が入らないTPPはありえません』と」と自慢そうに書いている。徹夜で考えたおべんちゃらに違いない。

それで半開きとなった扉を開け放って実際に交渉に参加したのは安倍で、彼の動機は、もちろんオバマに媚びを売りたいのは同じだが、それ以上にTPPの中国包囲網という一面に深く心を動かされてしゃにむに突き進んだものと推察される。

第2次政権発足直後の安倍は、尖閣有事に米軍が出動してくれるよう約束を取り付けるのに夢中で、それは、そのようにして米国が日米安保条約に基づいて日本に対して集団的自衛権を発動すると明言してくれるのであれば、それに照応して日本も米軍が中国や北朝鮮やイランから攻撃を受けた場合に米国に対して集団的自衛権を発動できるように安保法制を整備するために全力を挙げる──という政権運営戦略で頭が一杯だったからである。

オバマは、上述のように中国とどう付き合うかについてはブレがあるけれども、尖閣ごときの人も住まない岩礁で日中がどういうトラブルを起こそうとも、それに米中戦争のリスクを賭けて米軍を介入させるつもりなど毛頭ないことは確かで、13年2月の安倍訪米に対しても冷たい態度を露わにした。それで窮地に立った安倍は、ほんの2カ月前の総選挙でTPP反対を唱えて勝利したにもかかわらず、その場で外務官僚に命じて、TPP参加を事実上、表明するに等しい共同声明を作文させて発表してしまった。ずいぶん乱暴な話だが、安倍の胸の中では、TPPは経済面からの「中国包囲網」なのだから、尖閣有事対応~安保法制と整合するという判断があったのだろう。

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