【書評】『坂の上の雲』の旅順攻略戦は読み飛ばした方がいい理由

 

NHK『坂の上の雲』では、乃木・柄本明、伊地知・村田雄浩と無能な役がうまい風貌の役者をあて、司馬によるヒーロー・児玉源太郎を高橋英樹が演じていたことを思い出した。司馬『坂の上の雲』の中には「乃木の戦下手という言葉が何度も出てくる。これに呪縛される読者も多い。なぜ司馬は二人を無能と決めつけたのか、その疑問が真実追求の始まりだった。可能な限りの文献を読みあさり、自分の目で旅順攻略戦を検証するため、第三軍戦いの舞台である旅順へ乗り込む。その実地踏査レポートは圧巻で、その分野に無知なわたしには手に余るが、司馬が罵倒するほどの無能な戦いではなかったことが分かる。

著者は偶然、自衛隊の野戦特科出身の陸将と出会い、砲術についてかねてから疑問であったことを質問攻めする。あの小説は幹部学校での戦史資料とはなり得ず、まして内容など議論にもなっていない、小説だから楽しく読んでいればいい、旅順攻略は世界史的に見て大勝利だ、と陸将にいわれる。司馬のタネ本は内容が誤りだらけの谷寿夫著『機密日露戦史』である。司馬は谷戦史に天才的レトリックを用いて肉付けし、臨場感を与えた。二百三高地の児玉神話は司馬が描いたまったくの虚構である。『坂の上の雲』はじつに胸躍る素晴らしい小説だ。また読み返す。旅順攻略戦部分は読み飛ばせばいいだろう。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock

 

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