【書評】川崎フロンターレがバナナを売って算数ドリルを作るワケ

 

川崎フロンターレの選手たちが街のイベントに呼ばれた時には、「出演と言わず、「参加と言う。川崎フロンターレは市民クラブとなっており、クラブは川崎市の一市民だからである。

川崎フロンターレの選手はシーズン中であっても、依頼があれば川崎市が推進する事業には積極的に無償で参加することになっている。例えば、川崎市教育委員会とタイアップした「川崎フロンターレと本を読もう!」事業の中の「絵本の読み聞かせ会」では、サッカー選手が子どもたちに絵本を読み聞かせる

サッカー選手がサッカーをしているだけでは、取り上げてくれるのはスポーツ関係のメディアのみだが、絵本を読み聞かせているとなれば一般紙や一般報道番組でも取り上げられる可能性があり、サッカーに興味がない人にもクラブの話題を提供できる。高額なCM料を払って「試合を観に来てください」と宣伝するよりも、クラブの中心選手が子どもたちに絵本を読み聞かせるほうが、クラブのポジティブなイメージが伝わるのだ。

またフロンターレは、行政が制作するポスターにも無償で選手を使用してもらっている。献血事業、赤い羽根共同募金、放火防止活動、警察署や消防署の防犯・防災、児童虐待防止、首都高川崎線開通など、2010年には10件のポスターが制作され、街中に貼られた。

他のクラブでは、多くの選手がエージェントと契約して個人で事務所に入っていて、肖像権を使うには事務所の承諾が必要になり、同時に金銭問題も浮上する。しかし、川崎フロンターレの場合は、選手との契約書に、「ホームタウン活動は無償で参加するという一文が入っており、市民クラブなのだから当然、ホームタウン活動は絶対参加がルールだという。

クラブも年4回スケジュールポスターを自主制作し市内に掲出しているが、行政ポスターはそれよりも価値がある。警察官や消防署員、町会役員などが持って行き、ガラスの内側に貼ってくれたりして、短期間で剥がされることが少なく、クラブによるポスターよりも長く残っており、気づけば川崎市内が選手の写真であふれることになる。

そして、クラブカラーの露出というだけではなく、そのポスター自体が、クラブの地域への姿勢である「地域貢献」「地域密着」を表し、目にした市民に伝えるツールになっている、と天野春果氏は述べている。

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