米中首脳会談で露呈。トランプにも権力闘争にも敗れた習近平

 

軍における胡錦涛派の代理人である房峰輝氏の場合

汪洋氏は国務院を代表して米中首脳会談に出席していたが、中国軍を代表して首脳会談に出席した唯一の軍人は、前述の中央軍事委員会連合参謀部参謀長の房峰輝氏である。

実は汪洋氏とは同様、この房峰輝氏もまた、前国家主席の胡錦涛氏の息がかかっている軍人で、いわば軍における胡錦涛派の代表格なのである。

房峰輝氏はもともと広州軍区の参謀長であった。2005年に当時の胡錦涛軍事委員会主席が初めて多くの軍人たちの軍階級昇進を実行したとき、房氏は少将から中将への昇進を果たした。その後、房氏は胡錦涛主席に近い軍人の1人として出世を重ね、2007年には重要な北京軍区の司令官に任命された。2009年、中国が建国50周年を記念して天安門広場で盛大な閲兵式を執り行うとき、「閲兵指揮官」として胡錦涛主席の側に立ったのは房峰輝であった。それ以来、彼は数少ない「胡錦涛の軍人」として認知されるようになった。

そして2012年年10月、胡錦涛主席は、軍の作戦を担当する重要ポストの解放軍総参謀長に房峰輝を任命した。11月には胡氏はさらに、軍人の范長龍と許其亮の両名を党の中央軍事委員会副主席に任命した。

胡氏が行ったこの軍人事は実に異例であった。彼はその時、2012年11月中に開催予定の党大会において引退する予定だった。本来なら、軍事委員会の新しい副主席や総参謀長任命の人事は、党大会後に誕生する新しい総書記・軍事委員会主席(すなわち習近平氏)の手で行われるべきであるが、胡氏はこの普通のことをやろうとしなかった

自分の引退が決まる党大会開催の直に、彼は大急ぎで次期中央軍事委員会のメンバーを決めただけでなく、軍の心臓部門となる総参謀部を自分の腹心で固めた

胡錦涛氏がこの異例な軍人事を断行した理由は、誰の目から見ても明らかだ。次にやってくる習近平政権においても、軍における自分自身の影響力を温存しておくためである。

特に軍の要となる総参謀長のポストに側近の房峰輝氏を据えたことはまさにそのための措置であり、房峰輝氏はいわば、軍における胡錦涛氏と胡錦涛派の代理人なのである。

胡錦涛派はすなわち共青団派であるから、房峰輝氏は事実上、軍における共青団派の代理人であり、軍における共青団勢力の代表格である。その一方、胡錦涛氏は汪洋氏を副首相の要職に据えて、次期首相人事の布石を打ったことは前述のとおりであるが、こうして見ると、胡錦涛氏は引退する前に、実に用意周到に政府と軍人事の要所を押さえて、習近平政権下における共青団派の勢力温存と勢力拡大の布石をきちんと打っておいた

そして今、今回の米中首脳会談において、汪洋氏と房峰輝氏という2人の共青団派主要メンバーがいっせいに登場して習近平主席の左右を固めた光景から見れば、胡氏の打った布石が権力闘争の中でその大いなる力を発揮し始めた。このままでは、次の党大会において汪洋氏が政治局常務委員に昇進し、来年春には首相にも昇進して政府を押さえることとなる。そして房峰輝氏は引き続き軍部の要として軍の中から共青団派を支えることとなろう。

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