米中首脳会談で露呈。トランプにも権力闘争にも敗れた習近平

 

次期首相最有力候補に浮上した汪洋氏の来歴

今回の首脳会談は、習近平主席とトランプ大統領の初会談であると同時に、習近平政権と誕生したばかりのトランプ政権との初会合でもあるから、その参加メンバーの顔ぶれも注目すべきポイントの一つである。

アメリカ側の参加者には国務長官のティラーソンなどの主要閣僚のほか、晩餐会には大統領がもっとも信頼する娘のイバンカさん夫妻も同席している。

一方、中国側の参加者は習主席本人以外には以下の顔ぶれである。

  • 共産党政治局委員・党中央政策研究室主任の王滬寧氏
  • 政治局委員・副首相の汪洋氏
  • 政治局委員・党中央弁公室主任の栗戦書氏
  • 外交統括担当国務委員の楊潔チ氏
  • 中央軍事委員会連合参謀部参謀長の房峰輝氏

である。その中では、王滬寧氏江沢民政権・胡錦涛政権の両政権にわたってずっと中央政策研究室の主任を務めており、いわば共産党政権の最高ブレーンの役割である。彼はブレーンとして歴代指導者に仕えていて派閥色がほとんどないから、今の習近平政権になってから重用されている。今年秋の党大会では、王滬寧氏の政治局常務委員昇進はほぼ確実視されている。

党中央弁公室主任の栗戦書氏となると、それは誰でも知っているような習近平主席の側近の中の側近であり、習氏の女房役・右腕としての存在である。したがって次の党大会で、彼もほぼ間違いなく、政治局常務委員に昇進して最高指導部の一員となろう。

そして、この2名と並んで、副首相の汪洋氏は米中首脳会談に参加して、正式会談の時には習主席の隣に座っていたが、実はこの彼こそは、首相の李克強に次ぐ共青団派の主要幹部の1人である。

汪洋氏の経歴を見ると、彼は1981年に安徽省宿県の共青団副書記に就任して以来、安徽省の共青団宣伝部長、安徽省共青団副書記へと昇進を続けたという、まさにバリバリの共青団派の出身幹部である。2007年には、直轄市の重慶市共産党書記の在任中に、当時の党総書記・国家主席の胡錦涛氏に抜擢されて政治局委員に昇進した。それ以来、彼は共青団派においては胡錦涛・李克強に注ぐ序列第3位の主要幹部となった。

2012年秋の第十八回党大会では、広東省の共産党書記であった彼が胡錦涛氏の強い推薦を受け、政治局常務委員に昇進する見通しとなったが、結局江沢民派勢力に阻まれて叶わなかった。翌年の2013年、汪洋氏は中央に抜擢され、政治局常務委員の張高麗氏らと並んで、国務院副総理になった。

習近平氏よりは2歳上ではあるが、今年62歳になった汪洋氏は定年にはまだ早く、今の政治局委員の中でも若手」の部類に入っている人物だ。従って今年秋の党大会において彼がどういう待遇を受けるのか、念願の政治局常務委員昇進が叶うかどうかは以前から、中国政界の注目すべきポイントの一つである。今回は、汪洋氏が政治局常務委員入りが確実視されている前述の王滬寧氏や栗戦書氏と並んで、米中首脳会談の中国側の主要メンバーとなっていることからすれば、どうやら今度こそ、彼は一段と昇進して最高指導部入りを果たすことになるのではないかと考えられる。

問題は、政治局常務委員に昇進した場合、今は副総理である彼の職務はどうなるのかであるが、一つの可能性としては、来年3月開かれる全国人民代表大会において、同じ共青団派の李克強氏の跡を継いで国務院総理首相に収まることである。その際、今の首相の李克強氏は政治局常務委員のまま、もう一つの主要ポストである全国人民大会常務委員会主任(日本で言えば国会議長)に就任することとなろう。

今の全国人民代表大会常務委員会主任の張徳江氏はすでに71歳の高齢で、しかも消えていく運命の江沢民派幹部だから、今年秋の党大会では確実に引退に追い込まれて、来年の全人体では当然、全人代常務委員会主任のポストを手放すこととなる。そうなると、彼が張氏の後を継ぐこととなるが、その際、今の首相である李克強氏は首相職を副首相の誰かに譲り、名目上は首相よりも地位が高い全人代常務委員主任に収まるのはもっとも自然的な流れである。

その際、副首相の誰かが李首相の後を次いで次期首相となるのだが、実は今の筆頭副首相の張高麗も江沢民派であってしかも高齢であるから、今年の党大会と来年の全人大においては確実に消える。そうすると、次の首相のなり手としては、すでに政治局委員となっている汪洋がもっとも有力であろう。

こうした流れの中で、今月の米中首脳会談に当たって、汪洋氏は副首相として習主席と共に会談に臨み、しかも首脳会談の前、彼はアメリカの財務長官・商務長官との個別会談を次から次へとこなしているから、汪洋氏はすでに、今後の中国政府の対米経済交渉の最高責任者となっている感がある。

この流れから見れば、今年秋の党大会では汪洋氏はまず政治局常務委員に昇進して、そして来年春の全国人民代表大会においては李首相の後を継いで次期首相となる可能性は大。つまり来年以降も、中央政府に当たる国務院は依然として、胡錦涛氏の率いる共青団派の牙城であり続けるのである。

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