独裁国家の弱み
北朝鮮や中国のような独裁国家では、独裁者は国民の生命や財産は気にしない。あるアメリカ陸軍大将が人民解放軍最高幹部たちとの宴会に出席した際、いささか酔っ払った中国の大将が「我々は上海が核攻撃を受けて消滅しても戦争は続けるが、アメリカはロサンゼルスが核攻撃を受けた瞬間に戦争はできなくなるであろう」とテーブルを叩きながら豪語したという。
酔っ払いの大言壮語ではない。現に毛沢東は大躍進政策の失敗で推定2,000万人を餓死させた後、政権内での保身のために文化大革命を起こし、紅衛兵らの虐待で党幹部、知識人ら40万人が殺害されたと言われている。金正恩の父親・金正日も自らの権力奪取後、国民の飢餓を放置し、3年間で国民の17%近く、約370万人を餓死させたと推定されている。
こうした独裁者たちは自らの保身のためには、国や国民がどうなろうと気にしない。逆に、他国を攻撃したら自分が殺されると分からせれば、その侵略行為を抑止できる可能性がある。米軍が北朝鮮に核開発をやめなければ金正恩の「斬首作戦」をする、と個人的に脅かしているのは、このためである。
米国は金正恩個人を狙えるだけの武力を持っているが、我が国は持っていない。日米安保によるアメリカ頼みでも良いのだろうか。いや、そうはいかない場合もある。
「防衛」の理想は「防御」ではなく「抑止」
たとえば、北朝鮮が日本に対して「経済制裁を解け。解かなければ、日本のいくつかの都市にミサイルを撃ち込むぞ」と脅してくる事態を想定できる。
この場合、もし日本がノーと言って、実際に何発かミサイルを撃ち込まれたとする。そして在日米軍が出動する前に、北朝鮮は「これ以上の攻撃はしない。経済制裁を解くよう、再度、勧告する」と言ってきたら、在日米軍はどうでるか。
日本にミサイルは撃ち込まれたが、すぐに停戦状態になっている。ここで在日米軍が出動すれば、北朝鮮対アメリカの戦いになって、第2次朝鮮戦争の引き金を引いてしまう。戦闘が行われていない以上、アメリカがその危険を冒してまで報復してくれるとは信じられない。このように日米安保条約の隙間を狙って、日本だけを脅迫するという手もありうるのである。
こういう時に、日本の武力だけで、日本にミサイルを撃ち込んだら金正恩の命もないぞと脅すことができたら、それが抑止力になる。
そもそも「防衛」のために莫大な税金を投入して軍事力を保持しなければならない究極の目的は、日本が外敵から軍事攻撃を仕掛けられたら「防御」するためではなく、「外敵が日本に対して軍事攻撃を実施するのを事前に思いとどまらせる」こと、すなわち「抑止」にある。
自衛隊が「防御」する段階に立ち至った場合には、いくら自衛隊が頑強に「防御」したとしても、日本国民の生命財産が何らかの損害を被ることは避けられない。したがって「防衛」の理想は「防御」ではなく「抑止」なのである。
(『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』北村淳・著/講談社)
軍事アナリスト・北村淳氏の至言である。「やられたら、倍返しだ」という「報復的抑止力」を持つことが「防衛」の効果的なあり方なのである。