【書評】「やられたら倍返し」たった1000億で北から日本を守る術

 

「巡航ミサイル1,000億円で中国も北朝鮮も怖くない」

北村氏は、この観点から、中国・北朝鮮に対する防衛(ただし、核攻撃を除く)に関して、卓抜な構想を提案している。まず、その要点を示した後で、詳しく説明しよう。

  1. 中国や北朝鮮からの攻撃パターンとして軍艦、潜水艦や航空機による接近襲撃は自衛隊による監視・撃退能力が高く、相手も相当なリスクを覚悟しなければならない。それに対して長射程ミサイル攻撃は最小のリスクで、我が国にダメージを与えられる。
  2. 現在、我が国のミサイル攻撃への防御は迎撃ミサイルで撃ち落とすシステムが中心になっているが、撃ち落とし漏れで被害が出る。しかも、多数のミサイルが発射された場合は、迎撃ミサイルを撃ち尽くして、その後はやられっぱなしとなる。
  3. ミサイル攻撃への最も効果的な防衛は、撃たれたらこちらも長射程ミサイルで撃ち返すという報復により、抑止をはかることである。迎撃ミサイルによる「防御」よりもはるかに安価に、より確実に「抑止」を図ることができる。

これが北村氏の著書『巡航ミサイル1,000億円で中国も北朝鮮も怖くない』というタイトルの意味するところである。

迎撃ミサイルでは撃ち漏らし、弾切れ

上記の各点について、もう少し詳しく説明しておこう。

まず1.の「最大の脅威は長射程ミサイル」という点だが、個人の戦いに例えて言えば、軍艦や航空機などの接近攻撃は殴りかかること、ミサイル攻撃は銃撃のようなものだ。殴りかかってくる相手よりも、離れた所から銃撃をしてくる相手の方が脅威が大きい、というのは、常識で分かる。

防衛面を考えると、殴ってくる相手には殴り返せば、相手に相応の打撃を与えられる。しかし、相手がいつどこから銃撃してくるのか分からない、というのは、はるかに大きな脅威である。

2.の迎撃ミサイルでは完全には防御しきれない理由を説明しよう。北朝鮮が日本を狙うには、スカッドD弾道ミサイルが使われる。最大射程距離は700~800キロで、西日本の多くの地域が到達範囲に入る。発射には地上移動式発射装置が使われ、北朝鮮はこれを50輛前後、保有していると見られている。とすると、最大50基の弾道ミサイルを一度に発射できることになる。

それに対して、現行のミサイル防衛システムは次のようなものだ。弾道ミサイルの発射を、警戒衛星とイージス艦のレーダーシステムで捉え、その弾道を計算して、SM-3迎撃ミサイルが発射される。しかし、その撃墜率はこれまでの10年の経験では8割強であり、50基が同時に撃たれた場合は、すべてを迎撃しても10基は撃ち漏らしてしまう

さらにSM-3ミサイルは1基25億円と超高額のため、イージス艦あたり8基しか装備されていない。海上自衛隊のイージス艦4隻がすべて出動していても、32基しか発射できない。北朝鮮が第一波で50基を撃ってきたらそもそも足りないし、第二派としてまた50基発射したら、もう撃ち尽くしてしまって、指をくわえて見ているしかない。

第二段の構えとしてパトリオット-3防空ミサイルシステム(PAC-3)もあるが、直径40キロの圏内でしか撃墜できず、国内にはこれが18セットあるのみである。

18セットを東海道・山陽新幹線沿いに横に並べたとしても、40キロ×18セット=720キロで、東京-岡山がカバーできるほどである。イージス・システムで防げず、パトリオットがカバーしていない地域はやられ放題という事になる。こういう事態を防ぐには、さらに数兆円規模の予算が必要となる。

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