【書評】天才・羽生善治が対局に負けるほど入れ込んだAIの可能性

 

羽生自身には人工知能の専門的な知識があるわけではない。ビッグデータ、ハードウェアの向上、ソフトの発展とくにディープラーニング(深層学習)の台頭などは理解していたが、シンギュラリティ(技術的特異点)について初めて知った時、10%も信じられなかったという。だがこの棋士は前向きの人だった。

彼は人工知能を「仮想敵とは位置づけない。「人工知能が社会に浸透していくことが確実視される今、セカンドオピニオンとしての人工知能をうまく使いこなすことが、今後ある種のスキルとして問われていくのはほぼ間違いないでしょう」。わたしは人工知能をやっぱり「仮想敵」と見做す旧人類である。

彼は「究極的な意味でクリエイティブなものに結びついていくかというと、中々難しい問題です」とし、人工知能関連の講演や対談時に「人工知能がどれだけ進化を遂げても、ふなっしーを生み出すことはできないのではないか」と話す。人工知能に「こういう可能性もある」と提示させる使い方はよしとする。

企画が立ち上がって取材を進めるうち、アルファ碁が登場した。さらにリサーチを深めると、ディープマインド社デミス・ハサビスは羽生の大ファンであることも分かり、独占取材を許可された。アルファ碁の強さは、アルファ碁同士のとてつもない数の対局をこなして、データを積み重ねた結果であるという。

驚いたことにこの棋士は、自分の言葉で人工知能の核心を文章化している。なみのサイエンスライターでは太刀打ちできない、みごとな出来だ。章末の「レポート」では番組ディレクター・中井暁彦が、羽生の言葉を受けて、客観的な解説や関連題目について補足する。アンチ人工知能な人におすすめ。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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