ことの起こりは、今から何年も前のことになります。
その頃、僕はニッポン放送で、深夜の番組を担当していたんですよ。
あの日、その番組の録音が終わった後、僕がタクシーで家に帰ろうとすると、
親しいディレクターの方がやって来て、
「淳ちゃん、帰るんだったら、僕を送っていってよ」
と言うので、一緒に車に乗ることにしたんです。
ちょうど、6月の頃だったでしょうかね。
僕はクーラーが苦手なもので、タクシーの窓を開けていたんですよ。
それで、ディレクターの人と話をしながら、
中央自動車道を、国立の方へ向かっていったんですよ。
あれは、三鷹のあたりに差しかかった頃でしょうか。
急に目の前が灰色になったんですよ。
ものすごい、霧が出ていたんです。
それが高速道路を、斜めにつっきっているんですよ。
そう、まるで映画のスクリーンのようなんです。
その中を車が、つっきっていくんですよ。
運転手さんも、
「こんなの珍しいな」
なんて言いながら、車を走らせているんです。
僕はそのとき、ぼんやり窓の外を見ていたんです。
すると、高速道路のわきに道路標識が立っているのが、見えたんですよ。
それを何の気なしに見ていると、
道路のわきに黒い着物を着た、黒い髪の女が立っているのが見えたんです。
僕は見た瞬間、これは飛び降りでもするんじゃないかなと思ったんですよ。
だけど、考えてみるとおかしいんです。
その女の立っている場所は街灯もないし、
僕のいるところから、距離があるんですよ。
僕に見えるはずないんです。
目の錯覚かと思ったんですが、あきらかに女がいるのがわかるんです。
車が進み、少しずつその女に近づいていくはずでした。
ところが、近くにくると、その女の着物が見えなくなっていったんです。
だけど、その女の顔だけは、はっきり見えてくるんです。
『稲川淳二の眠れない怖い話』VOL.0095(2009年09月24日号)
「生き人形1」より
……冒頭だけでしたが、もうすでに不気味な感じですね~。というわけで、続きが気になるという方は、メルマガのバックナンバーでチェックしてみましょう!