自殺寸前に起きたある出来事。「奇跡のリンゴ」はこうして生まれた

 

「あいつは頭がおかしくなった」

4年目が過ぎ、5年目に入ってもリンゴ畑の状態は悪化するばかりだった。木村さんの友人たちは心配して激しい口調で忠告した。

「無農薬では無理だってことは、もうわかっただろう。いい加減に目をさませ」
「少しは奥さんや、子供たちのことを考えたらどうだ」

しかし、木村さんは頑(かたく)なに首を横に振るだけだった。友人たちは心からの忠告に耳を貸さない木村に腹を立て愛想を尽かして去って行った

あいつは頭がおかしくなった」「バカが感染うつるから近づくな」と陰口を叩かれるようになり、木村さんも人を避けて、道で誰にも出会わないように、夜が明ける前に畑にでかけ、日が暮れてから家路についた。

ただ一つの救いは家族がバラバラになっていなかったことだ。木村さんが「もう諦めた方がいいかな」と珍しく弱音を吐くと、いつもは大人しい長女が色をなして怒った。「そんなの嫌だ。なんのために、私たちはこんなに貧乏しているの?」。いつしか長女は父親の夢を共有していたのである。

6年目になると、リンゴの木々は根っこまで弱ったのだろう。幹を押しただけで、ぐらぐら揺れるようになった。木村さんはリンゴの木を1本づつ回って、こう言いながら、頭を下げてあるいた。

「無理をさせてごめんなさい。花を咲かせなくとも、実をならせなくてもいいから、どうか枯れないでちょうだい」

もう出来ることは無くなって、あとはリンゴの木にお願いするしかなくなっていたのである。この頃から、木村さんはリンゴの声が聞こえるようになった、という。

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