自殺寸前に起きたある出来事。「奇跡のリンゴ」はこうして生まれた

 

9年ぶりの涙の花見

翌年の春、その光景を最初に見たのは、隣のリンゴ畑の持ち主竹屋銀三さんだった。「あいつとうとうやりやがった」と思わず、声をあげた。竹屋さんはお祝いを言いたくて、木村さんを探したが、見当たらない。

方々探し回って、人に借りた田で農作業をしていた木村さんを見つけた。「岩木山のお前のリンゴ畑に花咲いたぞ。行ってみろじゃ」

木村さんはオンボロ・バイクの後ろに奥さんを乗せ、畑に向かった。隣の畑の農具小屋に辿り着くと、その陰からそっと首を伸ばした。

畑一面に白いリンゴの花が咲いていた。言葉を失って、二人はその場に立ち尽くしていた。二人の目には涙が浮かんでいた。9年ぶりのリンゴの花見は涙に濡れていた

その日は、何度も花を見に行った。夕方にはお祝いをしようと、お酒を持っていき、リンゴの木の1本1本の根元に、少しずつかけて回った。「ありがとうよく花を咲かせてくれた」と。木村さんは言う。

みんなは、木村はよく頑張って言うけどさ、私じゃない。リンゴの木が頑張ったんだよ。…だってさ、人間はどんなに頑張っても自分ではリンゴの花のひとつも咲かせることが出来ないんだよ。…

 

それがわからなかったんだよ。自分がリンゴを作っていると思い込んでいたの。自分がリンゴの木を管理しているんだとな。私に出来ることは、リンゴの木の手伝いでしかないんだよ。失敗に失敗を積み重ねて、ようやくそのことがわかった。それがわかるまで、ほんとうに長い時間がかかったな。
(同上)

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