ロス五輪金メダリスト山下が柔道を通して取り戻したい日本の誇り

 

「柔道をやっている人はどこか違うと感じてもらえれば」

柔道界はなぜこれほど乱れてしまったのだろう、と山下は考えた。

国際的なスポーツとして柔道が盛んになればなるほど、日本人が勝つのは難しくなる。当然とも言える結果だが、国民の期待はさらに高まるばかりだった。

 

期待が過度の重圧となり、選手も指導者も金メダルを取ることしか頭になくなる。日本柔道では、勝負に関係ないことが軽視されるようになってしまった。

 

結果は大事である。私も勝負にこだわってきた人間だからよくわかる。

 

だが、ずっと先になって出る結果もあることを忘れてはならない。柔道人に魅力がなければ、優れた人材は集まらない。目先の金メダルばかりに拘泥していると、10年後の金メダルを手にすることが危うくなることに気がつかねばならない。
(同上)

「柔道を通した人づくり、人間教育」を目指して、「柔道ルネッサンス」の活動が始まり、山下はその中で、「人づくり・キャンペーン」委員会の委員長として活動を始めた。

子どもたちや母親からすれば、おそらく野球やサッカーのほうが格好良く見えるだろう。しかし、柔道をやっている人はどこか違うと感じてもらえれば、わが子にもそうなってほしいと願う母親も増えていくのではないか。

 

世の中の母親がわが子に柔道をさせたいと思ってくれるような柔道界になり、それによって子どもたちが柔道を始めてくれれば、この上なく幸せなことだと思う。
(同上)

武道を通じて日本の心を学ぶ

平成24(2012)年4月から、中学校の体育の授業で、武道・ダンスが必修となった。山下はその目的をこう説く。

武道必修化の目的は、つまるところ武道を教えることではない。武道はあくまでも切り口にすぎず、柔道や剣道や相撲を教材として日本の文化や日本の心を学ぶことだということを忘れてはいけない。
(同上)

たとえば、柔道では試合の前後に座礼を行う。

柔道では戦う相手を敵とは考えない。柔道で最も大切なのは、戦った相手を尊敬することである。相手がいるからこそ自分を磨き高めることができる。この気持ちを表しているのが日本式のお辞儀である。
(同上)

ロンドン・オリンピックでは男子は史上初の金メダルゼロとなった。しかし、応援する国民も「金メダルをとらなければ意味がない」というのではなく「柔道家として尊敬できる戦いぶりを見せてくれたのか」という視点をもつべきだろう。

そして母親たちが「子どもをあんな人に育てたい」と思うようになれば、柔道界の将来も、そしてそれを通じてわが国の未来も開けていくだろう。

文責:伊勢雅臣

 

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【著者】 伊勢雅臣 【発行周期】 週刊

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