「オール・フォー・オール」(皆が皆のために)という前原氏のキャッチコピーについて、発案者の井出氏はサンデー毎日のインタビュー記事でこう説明している。
財政は経済を成長させるためにあるのではない。人々を不安から解き放つためのものだ。僕が不安な時、仲間たちが僕のために税を払ってくれる。その逆もある。これが財政だ。だからオール・フォー・オールだ。
井出氏の理論は、成長を前提とするアベノミクスの対極といえる。税とは強制的に徴収され無駄遣いされるものではない。何歳まで生きても、いつ失業しても、誰もが安心して生きられる社会の共通の貯蓄であるという考え方だ。税の公平な分配によって将来不安をなくし、消費意欲を引き出していこうというものだ。
前原氏が会長をつとめる民進党「尊厳ある生活保障総合調査会」は井出氏との議論の末、今年6月13日、中間報告をまとめた。
これについて、山口教授が8月4日のツイートでエールを送った。
前原誠司は井出英策氏をブレーンに迎えていたという話は前から聞いていた。分断社会を終わらせるというメッセージこそ、今の民進党に最も必要。前原から社会民主主義路線が出てくることは歓迎したい。2005年に代表になったとき、自民党と改革競争をしたいと言ったことを思うと、大進歩。
前原氏によると、「小沢氏も『オール・フォー・オール』の理解者」だという。
政策的には変化している印象を受ける前原氏だが、もともと共産党アレルギーがあるうえ、代表選で野党共闘を見直すという発言をしたこともあり、小沢氏の進めようとする野党結集路線と合致しないのではないかと危惧する声が強い。
しかし、前原氏が「小沢さんとの関係をもっとうまくやるべきだった」(日刊ゲンダイ)と、民主党政権時代を反省していることからも、前原氏に対する小沢氏の影響力が増していることがうかがえる。
代表選期間中は、党内の保守系議員や連合の幹部などから反発を食らわないよう、共産党との協力関係には否定的な顔つきでいるほかなかっただろう。
小沢氏は田原氏から「枝野さんは共産党と選挙協力をする。前原さんはしないということですが」と問われ、こう答えている。
いやそれは、たぶん、言葉のアヤですよ。野党結集と言っても共産党まで一緒になるわけではないですから。
小沢氏がたえず言っているのは、共産党は連立政権を組む相手ではなく、選挙の協力政党であるということだ。