「五輪エンブレム撤回」新聞各紙はどう伝えたのか?

 

専門家の使い方を間違えた組織委

【東京】、1面の記事の最後に「新国立の続き…指摘耳貸さず」と題する北爪記者の解説的な記事が付いている。

解説は、混乱の責任について問われた武藤氏は、「組織委、デザインの審査委員会、佐野研二郎氏」を念頭に「三者三様」と述べたという。だが、「佐野氏が撤回を申し出るまで、自ら判断しなかった組織委の責任は極めて重い」と批判。公開性の低さ、選考過程の不透明さを指摘。佐野氏の作品に対する様々な指摘が出始めた後も「問題ない」と突っぱねていた組織委。「少ない専門家で決め、外部の指摘があっても押し通そうとする姿勢は、白紙撤回された新国立競技場の建設計画にも通ずる」と。武藤氏も「より開かれた選考過程を何とか工夫したい」とする以上、まずは経緯を検証し、反省を生かす必要があるのではないか。責任の所在を含め、丁寧な説明を求めたいとしている。

3面の解説記事「核心」は、問題の経過を時系列で追った表と、佐野氏のコメント全文に加え、著作権の範囲からデザイン業界の体質に及ぶ大きな記事となっている。

uttiiの眼

「核心」のなかには、「法的に見て、デザイン盗用の線引きはどこにあるのか」という問いが立てられている。これはなかなかに難しい問題だ。結果、佐野氏のエンブレム作品が著作権侵害に当たる可能性は低いという、著作権に詳しい弁護士の見方を紹介。同時に、一般の人には同じに見えても、微妙な形の違いでデザイナーは別の作品と見なすという。業界のなれ合い体質を批判する専門家は、審査委員代表だった永井一正氏が「シンプルな形は似てくることもある」と発言したことに関して、「絵画など他の芸術作品では通用しない。デザインは多少似ていてもいいんだという甘えが業界内にある」と指摘したという。

こうした指摘を見るにつけ、オリンピックのような催しについてはその開催準備過程から徹底して中身を一般人に開放し、みんなで作っていくスタイルを採用すべきだったのではないかという思いに駆られる。最終的な完成品にしていく過程では専門家、プロの力を借りる必要があるのだろうが、その前の段階では人々の関心を高めていく上でも、可能な限り公開し、みんなに意見を出してもらい、エンブレムのようなものは色々なアイデアを募る、そういうことをすれば、少なくとも今起こっているような問題は起こりえなかったのではないだろうか。

image by: Shutterstock

 

uttiiの電子版ウォッチ』2015/9/2号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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