そんなわけで、この「有資格検査員による完成車検査」というのは壮大なナンセンスであり、10月下旬の時点で問題を起こしていないトヨタの豊田章男社長もNHKのインタビューで「制度に問題あり」ということを言っているのです。
日産の大罪は、とにかく一般世論に「ルール破りをした日産は悪い」という印象を与えることで、「制度イコール善玉」という心理的効果を広め、結果的に改革を遅らせることに手を貸したということです。
この「完成車検査」ですが、これは経産省ではなく国交省の所轄で、完全に国内向けのドメスティックな制度です。そして、どうして改革が難しいのかというと、ここを崩すと車検制度の形式性もバレてしまうからで、そうなると膨大な利権と雇用の再編成という問題に発展するからです。
よく考えれば、車検制度の形式性が否定されて、現在のテクノロジーに合わせた簡素化ないし、自動化がされていけば、困るのはメーカーの系列ディーラーでもあります。そう考えると「改革」に声を上げなかったということにも、それなりに合理性があるわけです。反対にそうした事情の中で、10月末に改革を口にした豊田社長はやはり立派であるとも思います。
ですが、この問題は放置できないと思います。ただでさえクルマ離れの激しい日本、そして市場としては「縮小しつつ、電源問題があるので全面的にEVにも行けない」という非常に特殊な日本は、世界の自動車産業から置いていかれ、無視されていく、そんな末路も可能性としてはあるからです。
だからこそ、改革を粛々と進めるべきだったのですが、日産の不始末でそれが当面は先送りになってしまいました。そんなわけで、大罪ではあるものの、神戸製鋼や三菱マテリアルと同列に置くのは違うと思います。
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