患者の希望
また、不必要なケアを行った理由として次に多かったのは、患者さんからの希望ということでした。例えば、患者さんが抗菌薬を希望していましたので、風邪でしたが抗菌薬を出さざるを得なかったのです、というケースです。しかしながら様々な研究によると、患者さんからの検査や治療の希望が多いというのも、実際には医師の過大評価であったことがわかりました。現実には、医師がその検査や治療を勧めていたことが多かったのです。
米国におけるある研究で、平均所得の高い地域ほどがんの発生率が多かったことがわかりました。しかしながら、がんによる死亡率は平均所得によっての地域差はありませんでした。この研究を行った専門家によると、がんの発生率が高かったのは、過剰診断によるものであって、見つける必要のないがんも見つけてしまったからだろうとしています。
乳がんや前立腺がん、そして甲状腺がんにはそのような「臨床的に無害」ながんがあります。平均所得の高い人々ががんのスクリーニング検査を希望していたことも確かに一因ではありますが、医療機関がそのようなスクリーニング検査を推奨していたからともいえるでしょう。
不必要なケアの真の問題
チュージングワイズリーキャンペーンが世界的に広がっています。これは明らかに過剰と思われる低価値ケアについて、各国の臨床系の学会が自発的にリストアップしていきましょう、というキャンペーンです。各学会はそれぞれ5つずつ低価値ケアリストを発表しています。
しかしながら、このキャンペーン活動での課題は、自学会の会員が主に行っている領域については、低価値ケアとしてリストアップしていないことです。例えば、カテーテル治療手技を主に行っている学会はそのカテーテル治療についてリストアップするのではなく、別の領域のケアについてリストアップしていることが散見されます。
医師には経済的インセンティブがかかることがある、と医師の多くが認めています。ある調査では70%の医師がそう答えていました。ある検査機器を購入した場合、その検査による診療報酬を増やすために、その検査を行いたくなると言うものです。医療システム全体についてもそのことは当てはまります。患者が医療サービスを消費することによって医療システムは利益を生み出しているのです。
このような状況で真の問題はやはり過剰な医療による有害性です。過剰な薬は副作用の原因となります。過剰な検査はさらなる侵襲的な検査の必要性を高めることがあります。過剰な治療は偶発症のリスクを高めます。このようなことについて皆が理解できるよう啓発活動を行うべきです。抗菌薬に関しては国民啓発が進んでいます。これにならって他の多くの過剰医療についても啓発と教育を進めていくべきと思います。
文献
Welch HG, Fisher ES. Income and Cancer Overdiagnosis – When Too Much Care Is Harmful. N Engl J Med. 2017 Jun 8;376(23):2208-2209. doi: 10.1056/NEJMp1615069. PubMed PMID: 28591536.
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