政策が変わると国も変わる。日本がスウェーデンを見習うべき理由

 

あるスウェーデンのドイツの若者のライフプラン

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こんなことがあった。

私は、ストックホルム大学修士課程に通っているときに現地の教育系アプリを開発するIT会社で、国際部門で働いていた (職務内容はまた後日)。私の就職を助けてくれた国際部門のリーダーのドイツ人のKには大変にお世話になっており、公私を分けずに良い仲であった。

その彼とある時、帰りの地下鉄で一緒になった。最近の身の上話をしていたのだが、彼はリーダーの仕事をしながらも最近は、大学で教員になるための授業を受講しているとのことだった。IT業界の流動性は非常に高いので、いつ仕事がなくなってもおかしくない。然るべき時に備えて、資格を取っておこうというわけだ。ちなみに彼は、ドイツ人でストックホルム大学へエラスムス留学中(EU圏内の留学協定)に、スウェーデン人女性と出会い、そのまま同棲をはじめストックホルムにて生活を始めた。スウェーデン語の授業をクリアし、スウェーデン語だけで仕事ができるようになった彼は、このIT会社に雇われ、ドイツ語版のアプリの製作に携わる。そのアプリがドイツで大ヒットして彼の腕が買われて、国際部門のリーダーとなったのだ。

なぜ移民のスウェーデン語授業は無料なのか?

彼のこのキャリアにはいくつかポイントがある。まず、彼がドイツからの留学生だったという点である。1999年に結ばれたボローニャ協定のおかげで、EU圏内の高等教育における単位の互換性が保障された。この統一化により、今まで以上に協定国間同士での留学生や研究者の行き来がしやすくなった。ドイツからスウェーデンへの留学生は非常に多く、留学生のパーティにいってもドイツ人ばかりの時も多々ある。学費は協定国内からのスウェーデンへの留学なので無料。このおかげで彼は、スウェーデン留学が容易にできたのである。

次に移民統合という文脈である。Kが受けたスウェーデン語の授業はおそらく、民衆大学で開講される移民向けのスウェーデン語SFI(Swedish for foreginer)であるが、これは同棲ビザ(スウェーデン語でサンボという)や就労ビザを取得した外国人が受けられるスウェーデン語講座であり、授業料はかからないのだ。(日本人の留学生が大学で受講する授業とは別物である)語学をすることには金を払うことが常識な国である日本から来た私は大変驚いた。

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移民のためのスウェーデン語の授業が学べる施設

さらに、驚かされたのは当時、このスウェーデン語の授業のレベルをある一定期間内に修了すると 「ボーナス (sfi bonus)」が受け取れたのである。 SFIの授業は、いくつかのレベルに分けられるが、それぞれのレベルを一定期間内に修了すると6000~12000sek (82000円~165,000円)のボーナスを貰えたのだ。しかもそれを何回も受け取れる。私自身は、ABCDと四つあって、Dが最上級でそれを1年以内におえたのでこの12000sek (当時のレートで16万円)を受け取った。

導入されたのは2010年であったが背景には、インセンティブを付与することによって移民のスウェーデン語習得を早める狙いがあった。2014年7月にこのボーナスシステムは廃止されたが、それには金銭的インセンティブの効果が限定的だったからだ。(記憶では、SFI成績上位のドイツ人や日本人などの「優秀な留学生」ら5%しか結局このボーナスを受け取らず、政策の本当の対象としていた難民層の人らには大して効果をあげなかったからだという)

いずれにせよ、今でもスウェーデン語の授業は無料であることが変わりがないのは、スウェーデン社会に来たばかりの移民・難民が最低限の文化的な生活を送れるようにするための権利保障のためもあるが、スウェーデン語を早期に習得してスウェーデン社会で働いてくれると税金を払うことになるので、税収面でも好循環が生まれるからという理由なのだ。 つまり、このスウェーデン語の授業はただの娯楽としての「語学」ではなく、移民の社会統合の機能を果たしているのだ。日本ではこのような発想にはならないだろう。

こうしてKもスウェーデン社会にうまい感じで統合することができ、外国人であってもスウェーデン社会で早い段階から働くことができた。

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