京大、伊藤忠からの引きこもり。哲学者・小川仁志の波瀾万丈半生

2018.03.05
 

考えてみると、ここから私の人生はすでに転落を始めていたのです。受験競争の弊害を絵に描いたように、合格後ははじけまくっていたのですから。ところが、当時の京都大学は恐ろしいところで、ほとんど大学に行かなかったのに、なぜか無事卒業させてくれました。バカな奴は早く放り出したかったのかもしれません。

そして、おそらく合コンで鍛えたトークとバイタリティだけを評価されて、いやバブルの残り香のおかげで、なんの実力もないのに伊藤忠商事から内定をもらったのです。人気の高い大手総合商社です。遊んでいたのに大学も卒業でき、大手商社に内定をもらったことで、私は完全に人生をなめていました

プライドもビンビンに高くなっていたと思います。もう天狗です。ドイツの哲学者ヘーゲルの概念でいうと、絶対精神が鼻に宿っていた感じです。ヘーゲルは自由が発展していく様子を描きましたが、私もこれでついに実家から解放され、高給取りになってこの世の自由を手に入れたと感じていたのです。とにかくあの時は、春からの花の東京でのビジネスマンライフを夢見て、毎日ワクワクしていたことだけを覚えています。これから訪れる波瀾万丈の半生が幕を開けようとしていることも知らずに……。(第2回に続く)

image by: shutterstock.com

小川仁志

プロフィール:小川仁志(おがわ・ひとし)

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ogawa-photo1970年、京都府生まれ。哲学者・山口大学国際総合科学部准教授。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。徳山工業高等専門学校准教授、米プリンストン大学客員研究員等を経て現職。大学で新しいグローバル教育を牽引する傍ら、商店街で「哲学カフェ」を主宰するなど、市民のための哲学を実践している。また、テレビをはじめ各種メディアにて哲学の普及にも努めている。2018年4月からはEテレ「世界の哲学者に人生相談」にレギュラー出演。専門は公共哲学。著書も多く、海外での翻訳出版も含めると100冊以上。近著に『超・知的生産術』(PHP研究所)、『哲学者が伝えたい人生に役立つ30の言葉』(アスコム)、『悩みを自分に問いかけ、思考すれば、すべて解決する』(電波社)、『突然頭が鋭くなる42の思考実験』(SBクリエイティブ)、『哲学の最新キーワードを読む』(講談社現代新書)等。ブログ「哲学者の小川さん

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