考えてみると、ここから私の人生はすでに転落を始めていたのです。受験競争の弊害を絵に描いたように、合格後ははじけまくっていたのですから。ところが、当時の京都大学は恐ろしいところで、ほとんど大学に行かなかったのに、なぜか無事卒業させてくれました。バカな奴は早く放り出したかったのかもしれません。
そして、おそらく合コンで鍛えたトークとバイタリティだけを評価されて、いやバブルの残り香のおかげで、なんの実力もないのに伊藤忠商事から内定をもらったのです。人気の高い大手総合商社です。遊んでいたのに大学も卒業でき、大手商社に内定をもらったことで、私は完全に人生をなめていました。
プライドもビンビンに高くなっていたと思います。もう天狗です。ドイツの哲学者ヘーゲルの概念でいうと、絶対精神が鼻に宿っていた感じです。ヘーゲルは自由が発展していく様子を描きましたが、私もこれでついに実家から解放され、高給取りになってこの世の自由を手に入れたと感じていたのです。とにかくあの時は、春からの花の東京でのビジネスマンライフを夢見て、毎日ワクワクしていたことだけを覚えています。これから訪れる波瀾万丈の半生が幕を開けようとしていることも知らずに……。(第2回に続く)
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