竹内薫さん「日本の教育は鎖国状態、世界に遅れをとっている」

DSC06861 copy
 

著書の執筆にテレビのコメンテーター、さらにはホームスクール風のフリースクール運営と、さまざまな分野で精力的に活動されているサイエンス作家の竹内薫さん。そんな竹内さんが4月13日に有料メルマガ『竹内薫のシュレ猫日記<101冊目の始まり>自薦集+書き下ろし』を創刊しました。多忙な中での、新たな挑戦。なぜいまメルマガを創刊しようと考えたのか、そして毎号どんな思いを込めて執筆しているのか、MAG2 NEWS編集部が竹内さんに直接お話をお聞きしてみました。

サイエンスライターは絶滅危惧種

──テレビ番組のコメンテーターとして竹内さんをご存知の方は多いと思うのですが、竹内さんが何をされている方なのか知らない人も多いと思います。オフィシャルサイトのプロフィールでは、ご自身を「猫好き科学作家」(サイエンスライター)としていますが、このサイエンスライターという肩書きについて具体的に教えてください

竹内:サイエンスライターとは科学を分かりやすく伝える仕事です。世界中で科学と社会のつなぎ役として非常に重要視されていて、NASAはもちろん、さまざまな研究機関には必ずいるし、尊敬される存在なんです。ですが、日本でサイエンスライターは絶滅危惧種になっている。それは受験勉強で子供はもちろん、大人までも科学が嫌いになっているからなんです。

──受験勉強によって「科学は難しい」「嫌い」になってしまっていると

竹内:本当は科学はワクワクするものなんです。子供の頃、科学の実験をするのは楽しかったじゃないですか? でもそれが受験勉強によって難しいイメージがついて嫌いになってしまう。例えば、最近亡くなったホーキング博士(スティーヴン・ホーキング:イギリスの理論物理学者。現代宇宙論に多大な影響を与えた人物)の論文でどんなことが語られているのか、ということは一般の人が彼の論文を読んでも理解するのは難しい。でもそんな論文で語られていることを一般の人に分かりやすく、大人も子供もワクワクするような話として伝えていくのがサイエンスライターの仕事であり、社会的に重要なことなんです。ですが、海外では50万部売れている科学雑誌が、日本で刊行されるのは2万部とかになってしまっていて、日本では科学や数学の面白さを知る機会が減っているんです。

DSC06672 copy

──確かに子供の頃、科学の実験はワクワクさせてくれるものでした

竹内:暗記ばかりが必要な受験勉強をさせられることで科学に対するワクワクする気持ちは無くなっていってしまう。興味が無くなれば、当然科学雑誌は無くなってしまいますし、サイエンスライターは食べていくことができなくなってしまう。もちろん、各自治体にある科学館や大学などにまだ細々と生き残ってはいますが、非常にレアな職業になってしまっているんです。

──科学というと、今の親世代、特に40代、50代の人たちはSF作品から科学に触れることが多かったイメージがあります

竹内:確かに、僕らの世代などはSF作家が描く世界でワクワクするような科学がありましたが、それも科学雑誌同様に衰退してしまった。この問題は全世界で起きているわけではなくて、実は日本、韓国などを含む東アジアだけで起こっているんです。これを僕は日本版科挙」(清朝の末期まで中国で行われていた官吏の採用試験)と呼んでいるんですけど(苦笑)。

――日本版の「科挙」というのは言い得て妙ですね。長い間、中国で使われていた官僚の採用システムが現代の社会に移り変わる際に中国で廃止されたように、日本の受験システムも新しい時代に向けて廃止される時期が来ている

竹内:それがAI(人工知能)の登場により壊れはじめている。これまで暗記することで得られた知識は不要になって来ているんです。もちろん最低限の知識は必要ですが、暗記して覚えることが重要ではなく、すでにある知識を使って何をするのか? ということが重要になってきている。実は文部科学省も受験システムの改革をし始めていて、英語も実際に使える英語のほうが重要視され始めています。それに海外の大学では暗記型の試験だけではなく、これまでどんなことをしてきたのかどんな人生を歩んできたのか、ということが重要視されている。多様性が求められる時代になってきているんです。

AI時代に向けて必要なサバイバルスキルとは?

──暗記はAIの登場によって不要になり、知識で何をするのか、今まで何をしてきたのかが重要になってくると

竹内:これから受験システムが変わりますし、社会で求められることも当然変わってきている。そもそも仕事はプロジェクト単位で動いていることが多く、常に学んでいくことが重要ですよね? 仕事で学んで得ることは新しい発見よりも、再発見が多いですが、そういった再発見をする自分から学んで理解する、ということは勉強でも同じで、そういったことを子供の頃からすることが重要なんです。自分で発見が出来るということは楽しいし、それが理解につながっていく。もちろん、これからは自分がやっている仕事が急にAIに取って代わられることがあるかもしれません。ですが、自分で学び、考えて答えを導き出すということを子供の頃からしていれば、「これがダメだったから他の答えを、次の仕事を探してみよう」という次へのステップを踏み出すことができるサバイバルスキルが身に付くわけです。そうやって教育が変わっていくことによって、科学を能動的に学ぶようになり、またサイエンスライターの活躍する場も復活すると思っているんです。

──それが竹内さん主催のホームスクールで実践されている、アクティブラーニング(能動的な学び)なんですね

竹内:30年前であれば、学校に行って、さらに塾に行って偏差値の高い学校に入る、というのが成功パターンだったんですけど、今はそれが崩れてしまっている。実際に子供を持ってみて、どんな学校に通わせようかと思った時に、学ばせたい学校が見つからなかった。だから自分でホームスクールを立ち上げたんです。本来は国を挙げて危機感を持って取り組まなければいけないのですが、日本はいわゆる鎖国状態なんです。

──日本の教育は、世界の教育に比べて遅れていると?

DSC06735_06 copy

竹内:すでに世界は動き始めています。それで僕が主催しているホームスクールでは世界で採用されている最先端の教育をすることによって、世界に通じるサバイバルスキルを持った子供たちを育てていこうと。世界で行われている最先端の教育に注目していれば分かることなのですが、子供たちが能動的に学ぶこと、アクティブラーニングが重要になっているんです。

――最近ネット上で話題になった算数の問題で、「8人にペンをあげます。一人に6本ずつあげるには、ぜんぶで何本いるでしょうか?」という問題の子供が書いた「6×8=48」という答えは間違えとされて、「8×6=48」と答えるべきと書かれていた。というものがありましたが、そういった「こうあるべき」という日本の教育は時代遅れでしょうか?

竹内:いろいろと調べたんですが、文部科学省では8×6は、6×8ではいけない、とはどこにも書かれていない。学習指導要領(文部科学省が定めた学校教育法等に基づき作られた各学校で教育課程を編成する際の基準)には書かれていないんです。

──えっ? そうなんですか!

竹内:実はある教科書会社のアンチョコにそのように誤解を招くようなことが書いてあっただけで、それがいつの間にか答えとして全国に波及してしまっただけなんです。

──いわゆる忖度されただけだったと

竹内:そうなんです。いつの間にか忖度ばかりされてしまっているんです。

──そしていつの間にか明文化されてしまっている。まさに日本的な悪いところが出てしまっているんですね

DSC06841 copy

竹内:文部科学省も変わろうとしているのですが、日本は規模が大きい国なので、なかなか変えていくのは難しい。でも今始めないと間に合わない。だから自分でホームスクールをやり始めたんです。

メルマガは竹内薫のサバイバルの一つ

──そんな中で、なぜ竹内さんはメールマガジンを発行しようと思われたのでしょうか?

竹内:以前は1冊の本を書くとすると、初刷りが1万部で、ある程度重版すれば、大ヒットといかなくても約100万円ほどが原稿料として残る、というビジネスモデルがあったのですが、今は初刷りの部数が減ってしまい、重版のハードルも上がり、本を書いているだけでは生活できなくなった。それは出版業界全体としての流れなんです。

ではどうすればいいのか、といった時に僕はプロジェクト自体を変える必要がある、と思ったんです。単に本を書くのではなく、テレビにコメンテーターとして出演する。そうすることで本が売れることもあるだろうし、講演会の話をいただくこともある。そういった自分なりのサバイバルを実践しているわけです。自分達の子供にもそういったサバイバルを身につけて欲しいと思っている。そんな中で、新しいプロジェクトとして注目したのがメルマガです。メルマガというのは、ネット上で申し込むことで手軽に読むことができる。そしてこれまで本などの媒体で書けなかったことが書けるであろうと思ったんです。

──そんな竹内さんのメルマガはどういった理由から日記形式にしたのでしょうか?

DSC06819 copy

竹内:これは正直に言いますが、試行錯誤の一つです(笑)。もちろん成功への方式があって、こうすればいい、というのがあれば、「私はこういうことを書きます」と言うことができます。でも僕はメルマガに初めて取り組むわけで、自分の中に成功への方式はまだありません。だから日記という形を取らせてもらっています。日記であればいろいろなことを書くことが出来るし、柔軟に自分自身も変わっていくことができると思ったんです。

──内容だけでなく、自分自身も変わっていくために日記という形にしたのですね。メルマガでは読者の方からの質問も受け付けていますが、どういった狙いからなのでしょうか?

竹内:メルマガという新しい形の中で、読者の人と一緒に考えていきたい。科学の話をするにしても、上から、こういうことを教えますよ、というのではなくて、読者の人と同じ場所に立って、一緒に考えていきたいと思ったんです。今、複数の読者から数学や物理の入門講座をやって欲しいというものがあって、確かにサイエンスライターとして、そういった入門をメルマガでやるというのは、理にかなっているなと。そうやって読者とのコミュニケーションから内容が変わっていくのは面白いと思いますし、テレビや本などこれまでの媒体では言えないことも書いていくことができる。

──メルマガのサンプル号でも、テレビや本、Twitterでは言えないことを書いていく、と書かれていましたよね。でも、読者はもっと様々な分野の突っ込んだ話をされるのでは? と思っている方も多いと思います

竹内:メルマガでは、もちろん政治の話やエネルギー問題なども書いてみようとは思っています。ですが、もう少し読者との方々との関係性ができてから書きたいんです。僕はサイエンスライターと名乗っているように、何かを説明する場合、筋道を立てて考えて説明していくのですが、そのためには僕が今どんなことを考えていて、どんなことに触れているのか、どんなことを問題だと考えているのか、ということを共有して欲しいし、理解してもらう必要がある。

──そういう前提がある話は、本はもちろんテレビやTwitterでも難しいのでしょうか?

DSC06852 copy

竹内:本ではもちろん読者と対話することはできませんし、散漫な話は難しい。逆に深い話や突っ込んだ話は世界中に発信するTwitterでは難しい。Twitterはフォローしてくれている人だけではなく、検索すれば誰でも見ることができますし、拡散もされてしまう。竹内薫という人間がどのような考えのもとにこういう発言をしているんだ、という前提は加味されず、その言葉の強さであったり、一つのことだけが話題になってしまう。

それはテレビのコメンテーターも同じで、ある事柄に対してコメントを求められて答えているわけで、それは竹内薫という人間のすべてではないし、テレビではそんな前提がない状態で皆さんはご覧になっているわけで、限られた時間の中で議論をすることも難しい。

ですが、メルマガは竹内薫のメルマガを購読すると決めた人だけが読めるものであって、同じ文章でも本という媒体とは語り口が変わってくる。だから、メルマガではもっと秘密めいた(笑)会員制クラブのような感じで、もっと突っ込んだ話ができればいいなと思っています。だから竹内薫という人間を分かってもらうために、猫の話も出てくるし(笑)、最近観た映画の話も出てきてもいいと思っています。

読者と一緒に作り上げていく場としてのメルマガ

──竹内さんが、どういうことを考えていて、どういうことを問題だと思っているのかを説明したうえで議論をしていく場と考えているということですね

竹内:そうです。もちろん政治などの難しい話ばかりだけでは、飽きてしまうというのもありますが、物事を考える際にいろいろな角度から見ることが重要なように、竹内薫という人間をいろいろな角度で見てもらいたいんです。

──なるほど。では最後に、竹内さんのメルマガはどんな方に読んでもらいたいと思っていますか?

DSC06861 copy

竹内:まずは猫好きの方に読んでもらいたいですね(笑)。猫のネタは必ず入ってきますので。あとは数学とか物理とか宇宙とか、高度な話なんですけど、それを分かりやすく解説する入門的な話も入れていく予定なので、そういったことに興味がある方に読んでもらいたいです。そして先ほども言ったように、まずは竹内薫がどんなことを考えているのか、どんなことを問題だと思っているのか、ということを日記形式で書いていければ思っています。皆さんも、特にお子さんを持たれている方々には、これでいいのだろうか? もっといい形があるのではないだろうか? と、教育であったり、日本のあり方だったりを考えていたり、迷われている方も多いと思います。そういった疑問を持って答えを探している方々と一緒に考えていく場を作れればと思っています。

──ありがとうございました、今後のメルマガ配信を楽しみにしております

print
いま読まれてます

  • 竹内薫さん「日本の教育は鎖国状態、世界に遅れをとっている」
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け