のぞみ「接触事故」で新幹線の危険性を煽るマスコミ報道の違和感

 

問題は先頭部分が破損していながら、そのことに気付かず小倉駅を出発したという点です。この点に関しては、鉄道事業者として反省、謝罪がされており、それは必要なことだったと思いますし、改善も必要です。

但し、今回の事例に関しては、運転士として「あの程度の異音なら破損するはずがないと判断した可能性があるのは事実です。というのは、今回事故を起こした博多発の東京行き「のぞみ号」というのは、ほぼ99%がN700A系という車両で運転されており、その場合は先頭部分は強化されているからです。

正確に言うと、この先頭部分は車両のボディではありません。新幹線車両のボディというのはアルミ合金ですが、その先端部分は丸く穴が空いていて、そこに非常用連結器が設置されています。東海道山陽の直通車両の場合は、通常は16両固定編成ですから連結ということはないのですが、万が一車両に重大な故障が生じて編成が自走できなくなった場合に「牽引する、される」事態に備えて、全ての新幹線車両の先頭車には連結器が設置してあります。

今回壊れたのは、そのカバーですが、実は事故に遭遇した車両というのは、N700A系ではなく、一世代古い700系でした。700系というのはカモノハシという愛称で親しまれた往年の主力車種ですが、現在は最晩年に差し掛かっており、2019年度の終わりには東海道区間への乗り入れは終了すると言われています。ですから、新大阪以東で見られるのは残り1年半ということで、現在はこの区間について、通常ダイヤでは「こだま」の一部に充当されるだけとなっています。

この古い700系の場合は、連結器カバーは一体型のFRP強化繊維樹脂)でした。どうしてここだけ金属製ではないのかというと、非常時に取り外す際に重くて作業が不可能だからです。ちなみに、新しいタイプのN700Aでは強化型に変更されています。その代わり、部品を2分割できるようにして、1個あたりの重量を軽くして作業員が外せるような工夫がされています。

では、どうして古い700系が最速ののぞみに投入されていたのかということですが、実は「のぞみ」にも色々あり、最速のもの、例えば「博多発の東京行」では最終直通の64号(博多18時59分発)というのがあって、これは東京まで何と往年の「500系」を上回る4時間46分で行きます。どうして可能になるのかというと、N700Aの性能を生かして、山陽区間は最高時速300キロ、東海道区間は285キロで疾走するからです。

ですが、今回の176号」というのは、そもそもは臨時列車」であり、それも「広島=東京」がベースで、場合によっては「博多まで」という、つまり輸送力調整用のスジ(ダイヤ)」として組まれた列車です。そこで、山陽区間は285キロ、東海道は270キロしか出せない、旧型の700系を代走させてもOKという設定がされています。

ここからは推測ですが、例の台車問題への対応で点検修理のために、初期型のN700Aの編成が相当数離脱している中で、700系に出番が回ってきたという可能性があります。仮にそうであれば、いくつかの不運が重なっているとも言えます。

勿論、今後も「こだま」や「ひかりレールスター」などでは2020年3月以降も山陽区間では700系の運用は残りますので、東海道山陽の編成が「全て強化型の先端部分」になるわけではありません。

print
いま読まれてます

  • この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け