「薄毛を治す薬を開発できたらノーベル賞もの」などと言われますが、「薬」ではなく画期的な「毛髪再生法」が開発され話題となっています。2020年の実用化を目指しさらなる研究が続くこの再生法、どのようなメカニズムなのでしょうか。サイエンスライターとしてTVでも活躍する竹内薫さんが、自身のメルマガ『竹内薫のシュレ猫日記<101冊目の始まり>自薦集+書き下ろし』の中で詳しく解説しています。
VISION:毛髪再生を読み解く
理化学研究所とオーガンテクノロジーズ社が開発した毛髪再生法について考えてみたい。6月4日に発表 されて大きな話題になったのでご存じの方も多いだろう。
再生医療といえば、まずは、重い病気や疾患の治療から始まる。美容整形の分野にまで応用が進むまでには、かなりの時間がかかるというのが科学ジャーナリズムの常識だった。
ところが、今回の毛髪再生技術は、病気の治療ではなく、男性のハゲを治す切り札になりそうなのだ。私自身がハゲつつあり、あえて「ハゲ」という自虐的な表現を使っているが、専門用語では「男性型脱毛」という。
まず、全国で1,800万人いると言われる男性のハゲの悩みを解消し、それから、より深刻な、先天性脱毛、瘢痕(はんこん)、熱傷性脱毛、女性の休止期脱毛などに広げていく作戦らしい。
さて、毛髪再生というが、いったいどうやるのか。
毛髪は毛包から生えている。毛包には、上皮性幹細胞と毛乳頭細胞と色素性幹細胞という3つの重要な細胞がある。たとえば、頭頂部と前頭部の毛髪が危機的な状況にある私の場合だったら、まだ毛髪が残っている後頭部から頭皮を少し取ってくる。そして、3つの細胞を別々に培養してから一緒にし、毛包の元を作る。それを頭頂部や前頭部にピンセットで植えてゆく。
このテクノロジーの凄いところは、1センチ四方の頭皮があれば、20日間で毛髪が1万本再生できること。きわめて効率がよいのだ。
これまでにも後頭部の頭皮を取ってきて頭頂部や前頭部に移植する技術は存在したが、今回の技術は抜本的に異なる。幹細胞を培養しているからだ。幹から枝葉が生えるように、幹細胞からは、さまざまな細胞ができてくる。単なる移植ではなく、最先端技術を駆使した再生医療なのである。