取材調査
一応の配慮はするので固有名詞は避けることにする。市立K中学校の生徒であったことは、現地に行けば誰もが知っている事実である。
そして、転勤族が多く住まう地域性などもあり、この学校ではいじめがあったという話が絶えない。実際、不登校となっている子も多く、有効な対応策が取られている様子はない。
ただネットでは、学校の評判はさほど悪くはない。Aさん一家もそうした評判を聞いて、この地に移り住んできた。
Aさんはクラスに早い段階で打ち解け、友人も増えていった。そして、部活を決めた。
部活はソフトテニス部であった。生まれて初めて握るラケット、はじめてするテニスであった。
もともと運動神経が良いというわけではないが、とにかく努力する子であったから、メキメキと力をつけていった。
Aさんが部活に入るとき、これをやめさせようとしたり、クラスに馴染みすぎていてウザイと文句をいう子もいたが、Aさんはやりたいことを優先した。
Aさんは筋が良いということで、試合にも出ることになった。それは嫉妬の対象にもなっていた。
一方で、この部活は調べる限り、ブラック部活であった。部活内には暗黙のルールがたくさんあり、病気であろうが、怪我をしようが、テスト勉強や宿題があろうが、休むことは一切許されない。
それでも、Aさんは素直に努力を続け、生まれてはじめて試合に参加した。
その時、もらった賞品こそが、冒頭で紹介したお菓子であった。
その試合の直後に撮影された写真には、お菓子を誇らしげにもつ副顧問や達成感ある笑顔で映る部員、満面の笑顔で写るAさんがいた。
どんなに楽しかっただろうか、どんなに嬉しかったのだろうか。
この時のことを考えれば、いじめをしてくる子もいたが、Aさんはそれより良い方向を見ようとしていた。
Aさん自死後に、遺族がAさんの宝物が入っているケースを整理していた時、このお菓子の袋が、ビニールにキチッと入れられた状態で見つかった。遺族は、はじめ、ゴミかと思ったが、ゴミをこんなに丁寧にビニールに入れて宝物箱に入れているはずはないと思い、再び大切に保管した。
そして、写真を整理している時、試合の時にもらった賞品だということがわかった。
Aさんはこの時、部活の辛いこと、ちょっとした嫌がらせ(いじめ)があっても、部活も部員も大好きであったに違いない。それは、お菓子の袋をこんなにも大切に持っていたことからもわかる。