翼の折れたワシのマーク…大正製薬が人員大削減に踏み切った裏事情

 

経営に大打撃を与える「特許切れ」

大正製薬HDの例からもわかりますが、製薬会社は扱う医薬品の「特許切れが経営に大きな影響を及ぼします。新薬は原則20年は特許で守られ、高い価格で独占的に売れますが、特許が切れてしまうと後発品の登場などによる競争激化で収益悪化が避けられません。新薬開発をメインに行っている製薬会社にとって、集中的な特許切れは経営に深刻な影響を及ぼします。

10年ごろに大型医薬品の特許切れが相次いだ「2010年問題」がそのひとつの例といえるでしょう。特許が切れた医薬品と同じ有効成分で低価格の後発品が別の会社から販売されることで特許切れ製品の売り上げが急激に減る、いわゆる「パテントクリフ特許の壁)」に見舞われた企業が続出しました。

たとえば製薬大手のエーザイは、主力のアルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」と抗潰瘍薬「パリエット」の特許が相次いで切れたことにより業績が悪化しました。かつて売上高の6割を稼ぎ出していた両製品は、18年3月期にはその割合が2割未満にまで低下しています。これが大きく影響し、10年3月期に8,031億円あった売上収益(売上高に相当)は17年3月期には5,390億円にまで減っています。

現在、パテントクリフに直面しているのが国内医薬品2位のアステラス製薬です。

たとえば、17年1月に特許切れを迎えた降圧剤「ミカルディス」は同年6月に後発品が出たことで売り上げが激減しました。18年3月期の同製品の売上高は463億円と前年から50.3%減っています。17年4月に、抗潰瘍薬「ガスター」など長期収載品の16製品を投資ファンドに譲渡したことも影響し、18年3月期の国内市場売上高は前年比15.3%減の3,834億円と大きく落ち込んでいます。

同社は20年までに特許が切れる製品を多数抱えています。主力の過活動ぼうこう治療薬「ベシケア」のほか、気管支喘息治療薬「シムビコート」、消炎鎮痛薬「セレコックス」、抗がん剤「タルセバ」、抗真菌薬「ファンガード/マイカミン」が切れます。特許切れ後は後発品に押されるとみられます。

新薬メーカーがパテントクリフを乗り越えるには新薬を間断なく開発していくほかありません。しかし、それは簡単な事ではありません

ひとつの新薬が基礎研究や臨床試験などを経て発売されるまでに10~20年もの歳月を必要とし、その費用は数百億円かかると言われています。また、新薬の開発成功率はわずか3万分の1とも言われています。さらに、今年4月の薬価改定により以前のような収益は見込みづらくなり、新薬開発を取り巻く環境は厳しさを増しています。

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