池田教授ほんまでっか?「ほぼ無限の寿命を持つ植物が存在する」

 

すべての生物は生殖をするが、生殖をしない生物があってもいいわけで、一つの限定空間を維持しながら、長期にわたって生き延びることも原理的には可能であるが、限定空間内の生物のルールは、物理化学法則から必然的に決定される安定したものではなく、物理化学法則に矛盾しない範囲でその一部だけを恣意的に選んで構築したものなので、何かの加減で破綻して基底のルール(物理化学法則)だけが支配する空間に戻ってしまう(という意味は、限定空間と周囲の空間の区別がなくなるということ、すなわち死ぬということ)可能性が常にあり、生殖をして、限定空間を拡大再生産した生物だけが生き残ったというわけなのであろう。

多くの場合、一つの限定空間のシステムは徐々に不調になることが多く、これが老化であるが、生殖の結果作られた新しい限定空間のシステムをリニューアルするメカニズムがあれば、老化をしても限定空間の系列は存続し続けるというだけの話で、老化が限定空間の系列の存続のために何らかの役割を果たす必要はないのだと思う。

ほぼ無限の寿命を持つ植物の存在

米国ユタ州、フィッシュレーク国有林にあるアメリカヤマナラシの森は一つの種子から発生して、巨大なクローンとして生き延びている一つの大きな生命体(限定空間)で、一つにつながった根と4万本以上の幹から成り、その年齢は8万年とのことである。パンドと呼ばれるこの植物は、我々の感覚で言えば、ほぼ無限の寿命を持つと言えそうだ。すなわちこのクローンは老化しないのだ。アメリカヤマナラシは当然有性生殖もするわけで、老化は子孫の繁栄のために意味があるという考えはこの種にとっては間違いであることが分かる。

もちろん老化をしないということは不死ということではなく、生息環境が悪くなれば、死を免れないことは言うまでもない。アメリカヤマナラシの巨大クローンも、近年、野生動物や家畜の食害にさらされたり、背の高い針葉樹の樹が繁殖して、光が届きにくくなったりして、衰退の兆しがあるため、米農務省林野部は保護活動を推進しているとのことだ。

ある種の植物が老化しないメカニズムはほぼ分かっていて、動物の体細胞では細胞分裂ごとに短くなるテロメアが、植物の体細胞では短くならないことが最も大きな理由である。よく知られているように細胞分裂の際に染色体の末端にあるテロメアという部位がほんの僅かずつ切れて短くなって、人間では約50回分裂するとテロメアがなくなって、細胞分裂ができなくなり、新陳代謝が不能になって組織は死んでしまう(もっと正確に言うと、体性幹細胞のテロメアがなくなると、組織の細胞が死んでも新しく細胞を作ることができずに、体は急激に衰えてしまう)。

切れたテロメアを延ばすにはテロメラーゼという酵素が必要だが、動物の体細胞ではテロメラーゼ活性がごく低いのに対し、植物細胞では非常に高く、細胞の分裂能力が衰えず、故に植物は老化しづらいのである。もちろん植物でも個々の細胞は老化してしばらくすると死んでいくが、幹細胞から分裂してできた新しい細胞系列はほぼ不死だと考えてよさそうだ。

image by: Famartin [CC BY-SA 3.0], ウィキメディア・コモンズより

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