アメリカを「仮想敵国」に。仏マクロン大統領「悪魔」発言の裏側

 

中南米は自国優先、アジアも緊張感高まる

目をヨーロッパ諸国の外に向けても“分裂”および“国際協調主義からの離脱”の動きは加速しています。中南米諸国では、メキシコの大統領に選出されたロペスオブラドール氏や、新たにブラジルの大統領になった極右政党のボルソナロ氏といった「反国際協調主義・自国優先主義」の候補が支持を集めました。

また、再度の通貨危機に直面するアルゼンチンも、IMFからの支援を受け入れることで危機を脱するという意見と、IMFにコントロールされたつらい過去を思い出して反対する意見が真っ向から対決し、分裂の様相が強まっています。

アジアでは、一時期、中国の一帯一路を軸に「親中国路線」の政府が多数を占め、地域的に共栄共存の雰囲気が醸成されていましたが、一帯一路の後ろに隠された中長期的な中国の“狙い”を嗅ぎ取ってか(勝手な思い込みという説もありますが)、今年に入りスリランカやモルジブ、バングラデシュなど「反中国路線」の政府が支持を集めてきています。

それにより、一帯一路も陰りを見せ、アジアは再度、それぞれが違った方向を見ている状況に戻ってしまった気がします。再登板したマハティール首相(マレーシア)やジョコ大統領(インドネシア)などが協調の雰囲気を醸し出そうとしていますが、それぞれに民族・宗教的な分裂を国内に抱えており、協調の核になることはできていません。

そして、北朝鮮問題は、日中韓の間に“楔”を打ち込むことになり、北朝鮮の暴発は避けたいという方向性は共有するものの、皆、違う方向を向いているのも懸念材料です。そして、中国も、アメリカとの貿易戦争や北朝鮮問題の先に、何を予感し、何に備えているか。非常にアジアも緊張感を高めています

確実に世界はまた多極化しています。第2次世界大戦後、より強固になったアメリカと欧州との環大西洋Grand Allianceは終わりを告げようとしていますし、中南米も協調から自国優先の分裂へと舵を切っています。アジアも、協調して大きな勢力圏になる可能性を秘めつつも、RCEP(アジア地域貿易協定)交渉での行き詰まりに表されるように、地域として進むべき方向を示せないまま、国際社会で漂流し、アメリカや中国、欧州諸国の趨勢に左右されています。

特殊なブロックを形成する日本にチャンスあり

そして日本も、アメリカや中国、ロシア、そしてアジア諸国、アフリカ諸国、中南米諸国などと“つながり”を強化しつつ、JAPANという特殊なブロックを形成している様な気がします。国際協調の体制を守るにあたり、そのような日本は大きなチャンスを握っているのですが、それを発揮できずにいるような気がします。

11月11日、第1次世界大戦終結から100周年を迎えた式典で、トランプ大統領、プーチン大統領、欧州各国の首脳が一堂に会し、笑顔で写真に納まりました。しかし、昨今の国際協調主義の衰えを受け、各国・地域が自国優先主義に傾倒していく中、もしかしたら、この集合写真が、最後の国際協調主義のシンボルになってしまうのではないかと懸念しています。

皆さんは、どうお考えになりますか?

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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