70年続く北方領土問題を2島だけ返還で終結させたいロシアの本音

 

モスクワに28年住んでわかったこと

私は28年モスクワに住んでいましたが、わかったことがあります。それは、「ロシア政府には4島を返還する気が1ミリもない」ということ。なぜでしょうか?いろいろありますが、まず彼らは、日本のいう固有の領土という概念が理解できない。なぜ?ロシアの国の成り立ちと関係があります。

ロシア国の発祥地は、現在ウクライナの首都になっているキエフです。882年頃成立した「キエフ大公国」(ルーシ)といいました。そこから、どんどん東に勢力を伸ばし、19世紀半ばには極東地域を清(中国)から奪うまでになります。こんな歴史を持つロシアに、「あなたの国、固有の領土はどこですか?」と聞けば、「そりゃあキエフ周辺だよ」となるでしょう。ところがそのキエフは、ウクライナの首都になっている。

こう考えると、広大なロシア領の99%ぐらいは固有の領土ではなく、「征服した土地」といえる。だから、日本から「固有の領土だから返して」といわれても困ってしまうのです。そんなこといったら、国のほとんどを誰かに返さなければならなくなる。

というわけで、ロシアの領土観、「戦争で勝ったら自分の領土になる」というもの。たとえばケーニヒスベルク。これは、ドイツが「固有の領土」と主張できるかもしれません。しかし、第2次大戦の結果ソ連に奪われ、いまではロシア領カリーニングラードになっています。こういうと、私を含む日本側は、

  • ソ連は、日本がポツダム宣言受諾後に攻めてきたではないか!
  • ソ連が日ソ中立条約破棄を通告したのは1945年4月。失効は46年4月のはずではないか!

などと、いろいろ反論したくなります。ところがロシア側は、「ソ連が対日参戦することは、ヤルタ協定でアメリカ、イギリスも合意している」などと反論します。「ああいえばこういう」で埒があきません。

なにはともあれ、「ロシア側に4島を返す気が1ミリもない」ことは確かなのです(2島返還は、日ソ共同宣言があるので、より現実的です)。私が28年モスクワに住んで得た結論は、「日本が4島返還にこだわりつづければおそらく永遠に1島も戻ってこないし、日ロの戦争状態も永遠ににつづく」ということ。

ここで、日本人は選択を迫られます。

  1. それでも4島返還を目指して、要求しつづけるのか?
  2. せめて2島を先に返してもらうのか?

今まで日本は、不可能な「4島一括返還」要求をつづけていた。安倍総理は、「2島返還に大きく転換された。おそらく賛成より反対の方が多いと思います。そして、反対なのは当然ともいえるでしょう。

しかし、私は総理を非難している人にお聞きしたいです。「批判するのは誰にでもできますが、では、4島一括返還を実現できる、具体的な方法を教えてください!」と。そんな方法があれば、いますぐ安倍総理に教えてあげてください。4島一括返還が可能であれば、もちろんそっちのほうがいいのです。

image by: 首相官邸

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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