煮え切らぬ北方領土問題の着地点は「国境なき四島共同管理」か?

 

PlanC「四島一括返還」“みち”を開く外交カード

▼宙に浮いた南樺太、千島列島の帰属権

日ソ共同宣言以降、日本政府は一貫して北方四島をわが国固有の領土として主張し、四島返還を求めています。それは当然の権利ですし、その姿勢はもちろん評価すべきです。
ただ、素朴な疑問として、なぜ南樺太と千島列島をからめて交渉しないのでしょうか
もちろん、日本はサンフランシスコ条約(1951)で南樺太と千島列島を放棄しています。しかし、その帰属権は現在に至るまで宙に浮いたままです。
ここまでの日露交渉では、南樺太の「み」、千島列島の「ち」の字も出てきていません。語呂合わせではありませんが、北方領土問題を解決する“みち”として、南樺太と千島列島を加えた包括的な議論が必要だと私は考えます。

▼唯一評価できる共産党の姿勢

現在「北方領土」と言えば、条件反射的に「国後・択捉・色丹・歯舞の四島」しか頭に浮かばなくなっています。私たち国民の多くがそうですし、政府与党、野党も同じです。
おっと、共産党だけは違いました。
共産党の公式見解では「歯舞、色丹と千島列島全体が日本の歴史的な領土」としています。そして、「国後と択捉は、千島列島のなかの南千島部分」と定義します。
この定義をめぐっては、さまざまな議論があります。とりあえずそれを認めるとして、共産党の主張に耳を傾けてみます。
「ヤルタ協定の『千島引き渡し条項』やサンフランシスコ条約の『千島放棄条項』を不動の前提としないこと」を条件に「全千島を返還の対象として平和条約締結交渉を進める」
https://www.jcp.or.jp/web_policy/2001/04/post-296.html
南樺太が含まれていない以外は、正論だと思います。

▼南樺太も歴史的に日本の領土

ちなみに共産党が南樺太を「日本の歴史的な領土」として含めないのは、「領土問題解決の歴史的な基準としては、当時の領土交渉の最終的な到達点である一八七五年の樺太・千島交換条約にもとづくべき」との主張によります。
南樺太は「日露戦争の結果、日本がロシアから奪いとった」との理由で除外しているわけですが、ここは違うと思います。
領土の確定は、平和的交渉であろうが、戦争という最終的な外交手段であろうが、条約を根拠とします。
南樺太を日本の領土と確定したポーツマス条約(1905)は、少なくともサンフランシスコ平和条約まで有効です。そこで日本が樺太と千島列島を放棄したからと言って、「千島列島は日本固有の領土、でも武力で奪った南樺太は日本固有の領土ではない」という主張は筋が通りません。
ここは堂々と「南樺太も日本の歴史的な領土と主張し、その上で平和条約交渉に臨むべきです。

▼外交カードとしての南樺太、千島列島

もっとも、現実的に考えると(不本意ながら)南樺太にはすでに日本の領事館が置かれ、ロシアの実行支配を認める形になっています。得撫島以北の千島列島は、そもそも日本人の定住者がごく僅かだったので、そこまで固執する理由はありません。
しかし、どちらも法的な根拠を持つ外交カードとして使うことが可能です。交渉にあたっては、そのくらいの「したたかさ」を持つべきだと思います。
この期に及んでの「北方領土の範囲拡大」のデメリットは充分に承知しています。しかし、南樺太と千島列島を含めた交渉が水面下で継続されているとすれば、超電撃的四島一括返還も可能性がないわけではありません

▼「等分割」はロシアの伝統的お家芸

歴史的にロシア(ソ連時代を含む)の領土問題の基本的な解決策は「等分割」です。ポーランド分割しかり、中露国境策定しかり、バレンツ海水域の境界画定条約しかり。何でも折半、半分こです。
過去の日露首脳会談(2013)でも、プーチン大統領が安倍首相に向けて「過去に他国との領土問題で係争地の面積を等分する方式を採用した経緯に言及」と報じられています(2013/5/1日経新聞)
この「面積等分割法を北方四島に適用してみると、択捉島の西端あたりに国境線が引かれ、国後色丹歯舞の三島は日本領、シミュレーションでは「三島返還」です。

▼南樺太を含めれば日本に利あり!

では、南樺太と千島列島を含めて考えた場合はどうでしょう。四島返還は確実となります。
ロシアにとって北方領土は「失地回復」ではありません。ロシアによる強引なクリミア併合(2014)は、ソ連崩壊で失った領土を取り戻す失地回復政策の一環です。
失地回復で言えば、南樺太のみがそれに該当します。その意味からも、南樺太は重要な外交カードになり得るわけです。
日本政府は過去の教訓を活かして、もっとしたたかな外交戦略を身につけていってほしいところです。

紋切り型の締めになりますが、日露交渉の今後の行方を注視していきたいと思います。安倍首相の外交手腕と粘り腰プーチン大統領の決断力に期待しています。

image by: vector_brothers, shutterstock.com

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