煮え切らぬ北方領土問題の着地点は「国境なき四島共同管理」か?

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2019年1月22日、安倍首相とプーチン大統領による首脳会談が開かれました。今回、かなりの進展が期待されていた首脳会談ですが、フタを開けてみれば“肩すかし”を食らった感があるようです。果たして今回の協議は進展なのか、後退なのか。メルマガ『竹内睦泰と読者で作る「未来へとつながる歴史、政治、文化座談会」』の著者、竹内睦泰さんが分析しています。

日露交渉の着地点

安倍政権下では通算25回目です。内容を外務省HPから抜粋要約(一部補足)しておきます。

平和条約締結問題
シンガポールでの合意(1956年の日ソ共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる)を踏まえた具体的な交渉が開始、率直かつ真剣な議論が行われたことを歓迎。2月中に外相間の次回の交渉、首脳特別代表間の交渉も行い、交渉を更に前進させるよう指示。
北方四島における共同経済活動
両首脳は早期実現のために共同作業を着実かつ迅速に進展させるよう、事務方に指示することで一致。
幅広い分野での二国間協力
防衛交流・安全保障、議員間交流等のさらなる推進と加速。「政治対話」では、6月の大阪G20サミットに併せて日露首脳会談と日露交流年閉会式を行うことで一致。

いまはクールダウンの時期

そのためでしょう、メディアでは「進展せず」「焦る首相」「後退」といった否定的な表現が踊ります。自民党内部からは「いったん交渉を打ち切るべき」との強硬論が出ているとも報じられています(1/29毎日新聞)。

しかし、水面下ではかなりのところまで交渉が進展していると見るべきです。交渉の着地点はほぼ定まっているものの、いまは表に出す時期ではないと両首脳が判断しているのでしょう。

ここしばらくはクールダウンし、水面下でさらに内容を詰めながら機が熟すのを待つ。その時期は2020東京オリンピックが終わってから、安倍首相の自民党総裁としての任期が満了する2021年9月までのどこかであると予想します。

着地点としての予想3プラン

では、平和条約交渉の行方、その核心部分となる北方領土問題の着地点とは?3つのプランA、B、Cとして示します。

*プランA「二島返還」
*プランB「四島共同管理特別区」
*プランC「四島一括返還」

いずれのプランも「平和条約締結後に」との前提条件が付き、それぞれ派生形があります。可能性として一番高いと私が考えるのはプランB「四島共同管理特別区」です。
プランCは私の願望と期待を込めてのものですが、両首脳の頭の中には、そのシミュレーションも含まれていると思います。
以下の私の推論の根拠となるものは、現在に至る交渉過程で表に出ている情報、そして表には出ない裏情報(名を明かせない関係筋からの一次情報)です。それぞれのプランについて見ていきます。

PlanA「二島返還」双方にメリットなし!

▼日本国民の合意が得られない

プランAは、1956年の日ソ共同宣言を「ほぼ忠実に」履行する内容を基本とします。すなわち「平和条約締結後の二島(色丹島、歯舞諸島)返還」に準じます。
戦後一貫して四島一括返還を求めてきた日本政府、日本国民としては到底飲める案ではありません。日ソ共同宣言から64年間、紆余曲折がありながらも、日本政府が粘り強く交渉を継続してきたのは、「二島返還で決着させない」とする国民の強い意思を受けてのものです。
安倍首相も、そのことを充分すぎるほどわかった上でロシア側との交渉に臨んでいるはずです。

▼プーチン大統領の“爆弾発言”

しかし、最近になって「二島返還もやむなし」との声が国民の間に広がりつつあるのが気がかりです。
きっかけのひとつに挙げられるのが、昨年「ウラジオストク東方経済フォーラム」の公開討論おけるプーチン大統領の“爆弾発言”です(2018/9/12)。
いま思い付いた」と前置きしたプーチン大統領は、「あらゆる前提条件を付けずに、年末までに平和条約を結ぼう」と安倍首相に呼びかけたのです。

▼にわかに台頭した「二島返還論」

安倍首相がその場での返答を避けたことから、日本のマスコミは「領土問題、事実上の棚上げか?!」と大騒ぎました。
菅義偉(すがよしひで)内閣官房長官はすぐさま「北方四島の帰属問題を解決して平和条約締結」との従来通りの政府方針を述べて否定します。
これを契機にさまざまな憶測を呼ぶことになります。
その2カ月後、シンガポールでの日露首脳会談(2018/11/14)で、「1956年宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる」ことが安倍・プーチン両首脳の間で確認されます。
ここにきて、「二島返還」とその派生形の「一島返還+α」「二島返還+α」論がにわかに台頭します。

▼情報操作、世論誘導を疑う

昨年12月に実施された産経・FNNの合同世論調査では、「四島一括返還少数派に転落しています。
・「歯舞・色丹の2島だけの返還でよい」7.7パーセント
・「歯舞・色丹二島返還先行、国後・択捉引き続き協議」50.0%
・「四島一括返還」30.8%
https://www.sankei.com/politics/news/181210/plt1812100019-n1.html
「これまでの交渉経緯から四島返還は不可能。であれば、ここは妥協して実現可能な範囲で決着すべき」と考える人が急増したということでしょうか? 必ずしもそうではないでしょう。
穿った見方かもしれませんが、「四島一括返還」では都合が悪い勢力による情報操作世論誘導が行われているように思えます。心当たりがありますが、ここには書きません。

▼ロシアの国内事情による焦り

ロシア側にとって、北方領土問題は日本からの経済協力を取り付けるための重要な外交カードです。日本からの経済支援によってロシア経済を活性化させることが一義的な課題となります。
ただ「二島返還」で決着させれば、日本国民の大きな反発を招き、ようやく前進し始めた日露間の経済協力、人的交流などが停滞します。ロシアにとって困ったことになります。
ロシアの国内事情を見てみましょう。
ロシアによるクリミア侵攻・併合(2014)により発動されたロシアへの経済制裁(米、EU、日本など)が、ここにきてボディーブローのように効き始めているのです。
https://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2018/05/0521.html

▼ロシア側のメリットは小さい

ロシア国内におけるプーチン大統領の支持率は、一昨年あたりから急激に落ち込んでいます
直接的には年金改革に対する国民の反発によるものですが、ロシア経済の地盤沈下が背景にあるのは言うまでもありません。
プーチン大統領にとって平和条約交渉の加速は、
1. 日本から額の大きい経済援助・協力を引き出す
2. アメリカやEUの風当たりを和らげる(経済制裁の緩和)
の2つの狙いがあります。
その両方を壊すことになりかねない「二島返還」は、ロシア側に大きなメリットがありません。
以上より、プランAの可能性はかなり低いと考えます。

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【著者】 竹内睦泰 【月額】 【発行周期】 毎月 第1〜4木曜日予定

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